もう一つ、リニューアルの成功の秘訣について増田さんは「お客様の嗜好を尊重することに加えて、全社が納得してリニューアルに向けて動くこと。これができると、リニューアルはかなりの確度で成功します」と語る。

 キリンビールという日本を代表する大企業で「全社を納得させて動かす」ことの難しさとは具体的には次のようなことだ。

プロジェクトの全員を納得させる仮説と
「巻き込む力」が大事

 淡麗グリーンラベル1プロジェクトだけでも、リニューアルには関係部署をまたいで100人程度が関わることになるという。

「それだけ多くの人が動くので、基本的には全員が納得する仮説、方針を打ち立てないと誰も耳を貸してくれません。また、マーケティング部門が『お客様はこういう嗜好だからこうしたい』というだけではダメで、皆が納得して動いてもらえるスケジュールと目標を設定するのが一番大事です。

 具体的に言えば、商品開発の基礎となる醸造現場や、販売の最前線にいる営業現場、ホップなど材料の調達現場の人たちなどあらゆる人とすべてコミュニケーションをとって納得してもらう。独断専行では絶対できません」

 つまり、「巻き込む力」が大事になるわけだが、それを成し得るために、増田さんは次のような考えで動いているという。

「特にリニューアルで重要なのは『社内のマインド』。リニューアルが必要ということは、課題を抱えているということなので、社内が『よし、やるぞ!』という空気になることがとても大事です。

 そのために重視しているのは、データを公表すること。主観的な話をするだけではなく、客観的データに基づいてやりたいことを伝えます。そして、伝えるときは、メールを送るだけ、内線電話で済ませるだけ、などは極力せずに、直接話しに行きます。横浜に工場がありますが、そこへも直接足を運びます」

 これは、増田さんだけではなく、キリンビール全体でよく見られる光景だという。キリンビールのように大きな企業になると、1つのプロジェクトにかかわる関与者はかなり多い。そこで効率を考えるのではなく、地道で丁寧な作業の積み重ねることが最終的には大きな力となり、プロジェクトの成功に結びつくのだ。