一方、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)では著作権の保護期間をめぐる折衝が山場を迎えています。米国は「作者の死後70年」を主張し、「50年」の日本に保護期間の延長を迫っているようです。国益を考えた場合、コンテンツ大国の米国や欧州各国には、保護期間が長い方がビジネス上有利だということになるでしょうが、本当のところはよく分かりません。保護期間が長い場合、作品の流通が停滞するのではないかと危惧する見方も正しいように思えます。
最後に、「日本はまだ敗戦を引きずっている」という話に触れておきます。慰安婦問題ではありません。著作権の「戦時加算」です。太平洋戦争中に日本が連合国民の著作権を保護しなかったとして、サンフランシスコ平和条約(1952年発効)により、連合国民が戦争中に取得した著作権について、通常の保護期間に戦争期間相当の約10年間を加算するペナルティーを日本に課したままになっています。
敗戦国で、著作権保護の戦時加算を負わされたのは日本だけです。ドイツとイタリアには「戦時加算」というペナルティーはありません。理由は様々ですが、冷徹な外交の駆け引きの断面が見えます。コンテンツビジネスの礎となる著作権システムが「交渉の取引」にも使われるかもしれない例と言えます。「高邁な目的」はどこに行くのでしょうか。
以上、述べてきたように著作権には、「知らなかった」ではすまされない日常的要素と国境を越えて思わぬことが起きるスリリングな要素を持っており、誰もが入っていける世界です。私が務める東京理科大学大学院のイノベーション研究科・知財戦略専攻(MIP)は、知財についての基礎理論や専門性だけでなく、「次の一手」を探るビジネスパーソンに必要な教養(リベラルアーツ)を学ぶ場でもあります。教員と学生、学生と学生が議論することで、日々新たな「化学融合」(ケミストリー)を生んでいます。