「景気回復期待」で動くも
停滞ムードの住宅市況

オウチーノ代表取締役 兼 CEO 井端純一
同志社大学文学部新聞学(現メディア学)専攻卒。リクルートを経て、『週刊CHINTAI』『ZAGATSURVEY』取締役編集長などを歴任。2003年、オウチーノを設立。「新築オウチーノ」、「中古オウチーノ」、リフォーム業者検索サイト「リフォーム・オウチーノ」、建築家マッチングサイト「建築家オウチーノ」などを運営。著書に『広報・PR・パブリシティ』(電通)、『30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方』、『10年後に絶対後悔しない中古一戸建ての選び方』(ともに河出書房新社)などがある。

 住宅市況は4月の消費増税の影響を受け、全体的に停滞ムードが漂っている。本来は景気が上がってから税を上げるのが常識なのだが、アベノミクスと東京オリンピック開催に向けた「景気回復期待」に乗る形で、拙速に動いた結果だ。

 確かにベースアップは行われたが、給料が上がった人は一握りの大企業関係者だけ。大多数の中堅・中小企業関係者の手取りは変わらず、消費税増税分と便乗値上げ分だけ、可処分所得が減っているのが実情だ。

 消費税引き上げ前に起こる駆け込み需要と反動の冷え込みを避けるため、住宅ローン減税が拡充され、すまい給付金制度も設けられたが、需要の減速に対し奏功しているとは思えない。

 掛け声ばかりが目立った「景気回復期待」は、一方でマンションや戸建ての「用地高」を招いた。東日本の復興需要にシフトしているため、職人不足も深刻化している。さらには円安による建築費高騰もある。

 新築マンションや新築戸建ての価格上昇を見越して、本来は消費税とは関係ないはずの中古価格まで高止まっている。

湾岸のマンションに見る
「買える人」が先細り

 私が住んでいるのは江東区の豊洲だが、近辺を見る限り中古マンションの売れ行きが減速、新築もよほど人気がある物件以外動きが鈍っている。

 ここに居を構えた14年前、豊洲は何の変哲もない広大な空き地が目立つエリアだった。マンション価格も普通のサラリーマンが手を出せる3000万円台が中心で、都心に近いのにさほど高くないことから人気に火がつき、湾岸ブームが起きた。

 需要を支えた層は大きく3タイプ。第1が高所得のDINKSたち。第2が親の資金援助が期待できる資産家の子弟。第3が外国人の実需および投資だ。

 今日、外国人の実需および投資は衰えていないが、高所得DINKSや資産家子弟は、そんなに多くはいない。

 比較的動きのよい豊洲界隈でさえ、すでに「買える人」が先細っているのである。消費税のことを割り引いて考えても、サラリーマンの年収は漸減傾向にある。それに合わせて住宅価格が下がるならまだしも、逆に価格は上がる一方だ。買いたいけれど、買えない。あきらめムードが市況全体を覆っている。