誕生!「たみこの海パック」

 震災前の暮らしを取りもどそうと、誰もが必死だった。しかし、民子はこう考えた。

 「震災前の南三陸に戻っても、若い人たちは帰ってこない。何か新しいことを始めないと」

カキやワカメの目利きなら誰にも負けない「たみこの海パック」の阿部倍民子さん
Photo:ウェブサイトより

 自分にできる「新しいこと」は何だろう。民子は全国から集まっていたボランティアの若者たちの知恵を借り、海産物のインターネット通販「たみこの海パック」を立ち上げた。起業にあたっては内閣府の復興支援事業「やっぺす!起業支援ファンド」から250万円の支援を受けたが、それでは足らず、プレハブの事務所を建て冷蔵庫を買うために400万円の借金をした。

 「この私が起業なんてね」

 震災がなければ、あり得なかったことだ。だが、カキやワカメの目利きなら誰にも負けない自信がある。目玉商品は季節ごとに変わる「たみこのイチオシ」だ。

 「南三陸にはおいしものがたくさんある。全国の人に知ってもらいたい」という思いを込めて、「タコわさ」や「干しワカメ」など地元の特産品を詰め合わせにした。

 立ち上げ直後は「被災地支援」のムードに乗り、全国から注文が集まった。人手が足らなくなったので、近所の主婦をパートで採用した。しかし震災から1年たち、2年たつと売上が落ち、赤字の月も出てきた。従業員に払う給料のことが気になる。

 「ずっと続けていけるだろうか」

 雇用主としての責任を痛感している。

 年末には国の漁業の支援が打ち切られ、夫は自営の漁師に戻る。流された作業場を立て直すために、また借金を重ねた。自宅の再建にもお金がいる。それでも船が残った民子の家は幸運な方だ。船を流された漁師の中には再開をあきらめる者もいる。戸倉地区で支援打ち切り後に漁業再開を決めている家は13軒。震災前の半分だ。

次のページ

目覚めた南三陸の母ちゃんたち

TOP