「がんばって」より「おいしいね」と言われたい

 菓子職人の長嶋涼太は震災後、「地元の人たちにお菓子を食べてもらいたい」と考え、義母が営むペンションの一角を借りてマドレーヌを焼き始めた。「南三陸deお買い物」に「オーイング菓子工房RYO」のサイトを立ち上げると、全国から注文が集まり、出荷は2万個を超えた。

 全国の人たちから「がんばって」と言われるのはうれしい。だが最近は「いつまでもそれでいいのか」と考える。涼太の夢は地元の人たちの生活に潤いを与える「お菓子屋さん」になることだ。

「がんばって、ではなく、あそこのお菓子はおいしいね、と言われたい」と語るオーイング菓子工房の長嶋涼太さん Photo:ウェブサイトより

 「がんばって、ではなく、あそこのお菓子はおいしいね、と言われたい。実力で認められたいんです」

 そのために新しい工場を建てる決心をした。街の商店街にも店を出したい。8月、4人目の子どもが生まれた。女の子だった。

 「子どもたちに胸を張れる菓子職人にならなくては」

 家族が前に進む勇気をくれる。

自分が何かを始めないと、この町は終わってしまう

 7月下旬、東京・大森の山王商店街の一角が買い物客でにぎわっていた。震災半年後の2011年11月に始まった「石巻マルシェ」。廃業した履物屋の店舗を借り、週に一回、石巻の特産物を販売している。その中にネットの仮想商店街「南三陸deお買い物」を運営する伊藤孝浩の姿があった。「南三陸deお買い物」は「たみこの海パック」や「まゆ工房」を全国区に押し上げた陰の立役者である。

 伊藤はあの日、中国・青島にいた。千葉大学を出て牛丼の「すき家」のゼンショーに入社。幹部候補として青島に送り込まれ品質管理の仕事を任された。三男の伊藤は故郷の南三陸に戻るつもりはなかった。

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落ちる売上、「ならば、こちらから出ていこう」

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