――結果を出せない時期の寺本さんに対して、上司のサポートやアドバイスのようなものはありましたか。

 入社2年目になるとかなり改善できたのですが、受注予定が翌月に繰り越しになるケースが目立つようになりました。社内ではこれをスリップと呼んでいます。
顧客側の担当者は「今月発注します」と言い、私もそのまま上司に報告するのですが、実は担当者の上司や社長から最終的な了解が得られていない。スリップならまだマシですが、ときには発注そのものがなくなってしまうこともありました。

 これでは、受注を期待していた私の上司も困ります。あるとき上司から、「どうすればスリップをなくせるか。その対策をまとめて発表しなさい」と言われました。発表するとなると、チームのみんなが納得するような内容に仕上げなければなりません。そのときの経験が、営業プロセスのあり方を深く考える機会になったように思います。

――そして、「売れない営業マン」を卒業することができたということですね。

 はい。その頃からは、ほとんど毎月の目標をクリアしています。今ではホームページを見れば、「このお客さまはSalesforceを導入してくれるか」の見当が付くようになりました。

最後の一押しの段階で、
リスク要因を取り除く

――ところで、セールスフォース・ドットコムの営業プロセスは、引合いから受注までどのように進むのですか。

 商談の進捗状況は、顧客の意思決定プロセスに合わせて決められており、「01」から「08」までの8つのフェーズで定義されています。「01」というのは、引き合いはあったけれど、こちらからアクションを起こしていない段階です。「02」は、顧客の経営課題と当社ソリューションが営業担当者の頭の中で紐づけられた状態。ここまでが初期フェーズです。

「03」では頭の中で紐づけたことを、顧客の窓口担当者に伝えます。「04」も同様ですが、こちらは意思決定者に伝える段階です。以上が中期フェーズで、以降がクロージングフェーズになります。「05」は価格や導入時期などに関する交渉の期間。「06」では、支払い条件など契約に関する最終的な詰めが行われます。「07」は、お客様の稟議などを待っている段階。また、契約書のミスの修正などが発生することもあります。そして、「08」が注文書をいただくという完了フェーズです。

 初期から中期フェーズにかけて求められるのは、顧客の課題を深掘りしてソリューションにつなげるためのコンサルティング能力です。次に重要なのが、主として中期フェーズでは、自社サービスの中身をよく知っていること。そして、クロージングフェーズになると、顧客側のキーパーソンに対する営業力が問われます。

――寺本さんは売れない時代を経て、トップ営業マンになりました。自分の営業スタイルのどこが改善されたと思っていますか。

 私が弱かったのは最後の一押しの部分。これは、ERP の営業を行っていた時代のクセかもしれません。前職では数千万円以上の高価な商品を販売していましたが、顧客はこのようなシステムを必要不可欠なものと捉えています。したがって、競合に勝てば、自社ERP の導入に直結します。

 一方、転職してから担当した顧客は中小規模の企業です。営業プロセスはシステム化されていない場合がほとんどで、Salesforce のような仕組みの必要性を感じていない経営者もいます。

 こうした違いが、未達の連続やスリップの多発につながっていたのでしょう。そこで、以前のやり方をゼロベースで見直したわけです。

 例えば、クロージングについて学んだのは、いかにリスク要因をつぶしておくかということ。キーパーソンが「OK」と言っても、サービスの内容が気に入ったのか、価格に納得したのか、それともトータルでOK なのか。そうしたOK のレベル感をつかんだ上で、不十分な箇所を突き詰めリスクを取り除く。また、キーパーソンが複数いることもあるので、そのあたりへの目配りも欠かせません。