さくら事務所
マンション管理コンサルタント
土屋輝之氏

「とても理想的ではあるけれど、大規模修繕工事で精いっぱいで、改修工事を実践している管理組合はほとんどないでしょうね」

 こう指摘するのは、多数の管理組合から相談を受け、大規模修繕工事や改修工事のプランについてコンサルティングをしている、さくら事務所マンション管理コンサルタントの土屋輝之氏。その理由は、費用調達と合意形成の難しさにあるという。

 そもそも最初に策定された長期修繕計画は、分譲時の仕様性能を基に、「この部分は何年おきに修理・交換した方がいいだろう。それにはこのくらいの費用が必要だろう」と、ざっくりと修繕積立金をはじき出すための予算計画にすぎない。

「ですから、実際に修繕を行う段になったとき、予算が足りなくなることもあるし、計画した修繕内容がマンションの実情と合致していないこともある。しかも、ここ数年工事費が高騰しており、資金調達がより難しくなっている。こうしたことを織り込みながら、住民が自分たちで長期修繕計画を随時見直していくことが不可欠なのですが、実際にはあまり行われていません」

 まして改修工事となれば、費用は億単位となるケースも多く、区分所有者の資金負担は大きくなる。さらに、共用部分に著しい変更を伴う工事は、権利者の各4分の3以上の賛成が必要となり(著しい変更を伴わない場合は、権利者の過半数)、改修はほとんどがこれに相当する。

「例えば、高齢者は環境の変化を好みませんし、経済的に余裕のない方もいます。『私がいなくなってからにしてくれ』というような人が出てきて、組合としても動きが取れなくなってしまい、合意形成に至らないケースが非常に多いのです」

 また、改修工事には、その内容が、ある人にとっては魅力的だが、ある人にとってはあまり意味がない、ということもあり得る。例えばエレベーターの設置は高齢者や4階以上の居住者には魅力的だろうが、1~2階の若い世帯にはピンとこない。

 こうしたことから、合意形成はますます難しくなり、建物の老朽化・陳腐化だけが進んでしまう。これが現状なのである。