良いプロセスを標準化し組織で共有・活用する
同社によれば、経営者が抱える悩みの一つに「経営戦略が現場に落ちていかない」という問題があるという。プロセスマネジメントの草分けとして研究に携わってきた取締役会長の小松弘明氏は、「厳しい言い方をすると、ほとんどの営業の現場は戦略に関心がありません。『自分の仕事は売り上げを上げること』というレベルで完結してしまい、自社の戦略を実現する行動や戦略のそもそもの目的を意識できないのです」と指摘する。この結果、ともすれば的ハズレな営業を続けてしまい、努力しても業績に結びつかない悪循環が起こる。
では、確実に顧客価値創造につながる営業を実現するには、具体的にどのようなプロセスマネジメントが必要なのだろうか。同社が主催する「プロセスマネジメントアワード」で2013年グランプリを受賞した医療関連の情報技術会社では、まず自社の業務の目的や強み、特性などを徹底的に分析した。その結果、高品質のサポートが最大の強みであり、同時にそれが属人的なものにとどまり、業績拡大のボトルネックになっていることが問題だと気付いたという。
「そこで、その強みである技術やノウハウを標準化して社内に展開する一方、各人のスキルの可視化を行い、サービス品質を高めることで競合他社との差をさらに拡大したのです」(小松氏)。
この取り組みが功を奏し、売り上げは2年後に1.91倍まで伸びた。同時に従来は半年かかっていた教育期間が一気に7~10日に短縮。まさにプロセスマネジメント=営業プロセスの可視化とノウハウの標準化・体系化、そしてそれらの共有化によって組織全体の営業力が強化された成功例といえよう。
ディテールを大切に組織全体で人を育てる
野部氏はプロセスマネジメントを成功させるポイントの一つに、「ディテールにこだわること」を挙げる。戦略を具体的な営業行動にまで結びつけるには、スタッフの一挙手一投足までをマニュアル化するようなこだわりが必要だというのだ。事実、同社がコンサルティングを手掛けたリゾートホテル運営企業は、トップセールスのノウハウを「5ステップ・66スキル」に分解・整理し、顧客向けの体験宿泊業務のWBS(Work Breakdown Structure=プロセス分解構造図)を標準マニュアル化した結果、体験宿泊客からのクロージング成功率が3.6倍にアップした。
だが詳細までマニュアル化してしまうと、若手社員などは息苦しく感じて、かえってモチベーションが下がったりしないのだろうか。データではむしろ逆なのである。
「若手社員に理想の上司像を尋ねたところ、『自分を成長させ導いてくれる人』が半数近くある一方、上司への不満は『指示の仕方があいまい』などといった声が目立っている。これを見ても、若手社員がきちんと仕事を教えて欲しいと考えているのは明白であり、マニュアル化は仕事の進め方をしっかり教え、組織的に人を育てるうえで有効なツールだと言えます」(野部氏)。
こうした若い世代も含めた一人ひとりの潜在能力を引き出すプロセスマネジメント、そして「科学的組織営業」が、顧客創造を模索する企業の重要な指針になっていくのは間違いない。