自分で見て、聞いて、体験する。
それしかない

学生B 日中韓の関係において、メディアの報道によってお互いの印象を悪くしている気がします。また、とくに中国においては、国家主導によりメディア操作がされている印象もあります。それについてはどうお考えでしょうか?

工藤 たしかに、中国の場合はメディア報道のなかに政府の意思が大きく影響しており、何か起きたときには議論の動きをコントロールしていると感じることもあります。ただこの10年、中国との対話を続けてきたなかで感じているのは、基本的にそれは日本も中国もメディアのやることは同じ、だということです。つまり、「メディアは売れるものを出す」、これだけなんです。たとえば「戦争間近」とか、「両国の軍事比較」とか、「どうやって尖閣を奪取するか」といった具合に、刺激的な言葉を並べたほうが売れる。なぜなら、そこにはそれを求めるユーザーがいるからです。ある意味、私たち市民がそういう状況を作っているとも言えます。

 しかし、それを規制できるのも私たち市民です。メディアが出すものにNoを言えるか。メディアに踊らされずに、真実を見極める眼を持たなければなりません。そのためには、自分で見て、聞いて、体験する。それしかないのです。

加藤 「利益」と「使命」の両立はとても難しい。それはメディアも同じです。そんななかで、「メディアが悪い。なんとかしろ」という議論は、僕は違うと思います。どんな問題にも正解はありません。答えは自分のなかにしかないのです。

 ちなみに僕がアメリカに行ってからよく聞かれるのが、「お前のイデオロギーは何だ?」ということ。そのとき僕はこう答えます??make a difference。最低限、人と違うことをすること、それが僕のイデオロギーです。僕は別に秀才でもないし、上手な文章が書けるわけでもなければ、優秀な学者がしているような精密な研究もできない。でもそんな僕にもできるmake a differenceのひとつは、「中国国民に対して、中国問題を、中国語で発信する」こと。日本政府や日本企業が立場や性質上展開しにくい分野に個人である僕がコミットメントしていくこと。それが現段階における僕のミッションなのだと自覚しています。

 そして、もう一つの僕のイデオロギーは、「一生就職しない」こと。長い人生における自分の存在意義を知りたいからこそ、自分のなかに違いを見出し、サプライズ打ち出していきたい。自分よりも若い人たちに、いろんな選択肢や可能性が広がっていることを行動で示していきたい。そのための方法論というか、一つのアプローチが「一生就職しない」という形に過ぎません。

米倉 工藤さんがおっしゃったとおり、国やメディアに毒されているのはわれわれ日本人も同じですね。イメージ先行で、偏見や嫌悪感を持つ人も少なくない。それだけ個人とは揺らぎやすいものであるのも事実です。

 しかし、アラブの春といわれたジャスミン革命が国家を倒したように、一人ひとりの声が昔と比べてはるかに大きくなっており、そして国を変えることもある。だからこそ、メディアから流れてくる情報だけに頼らずに、気になることがあればそこに赴き、自分の目で見ること。誰かがそれを見つけてくれることなんてない。自分で探す。そうした一歩を踏み出すことが、新たな未来をつくっていく君たちに一番重要なことなのです。

 ただ、三連休にもかかわらず今日ここに集まってくれた君たちは、すでに自分の足で一歩を踏み出しています。その一歩が日本をそして世界を変えてくれる原動力になる、と僕は信じています。

PHOTO: (C)Takeshi Ohyashiki