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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

なぜ、日本の技術者たちは
「iPhone」を作れないのか?
――技術者発想を断ち切るマーケティング

ニュースの深層で学ぶ技術経営戦略入門
東京理科大学専門職大学院MOT(技術経営専攻)

徳重桃子
【LECTURE Theater 2014 第2回】 2014年11月27日
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5つのベネフィット原則と
生活者視点への”翻訳”

 技術者にぜひ身につけていただきたいベネフィット発想は、これからお話しする「ベネフィットの5つの原則」で整理するとわかりやすいと思います。
1.機能ではなく、ベネフィットで発想する
2.ベネフィットとターゲットをセットで考える
3.ベネフィットには、機能的ベネフィットと心理的ベネフィットがある
4.革新的ベネフィットは、技術的革新、意味的革新の双方からアプローチできる
5. 競争は、ユーザーベネフィットに向かって起きる

です。

 順を追って解説します。

 1つ目は「機能ではなく、ベネフィットで発想する」。ベネフィットとは、技術者が生活者を理解するためのキーワードであり、その言葉通り「ありがたみ」です。スペックの良し悪し(機能)ではなく、機能を通して得られる「得、便益、満足」です。

 「痛くない注射針」を例にとって考えてみましょう。テルモが開発した先端直径が0.2㎜という極細の注射針ならば、注射をされても痛みを感じないと言います。このケースの場合、0.2㎜という技術は注目に値する「機能」ですが、生活者にとっては「痛くない」という「ベネフィット」こそが重要で共感のポイントです。このテルモの注射針はまさにその痛くないというベネフィットを技術のゴール地点として開発されたものです。つまり、ベネフィットを理解することで開発ゴールを設定できるようになることは、技術者にとっても欠かせない能力です。

 2つ目の「ベネフィットとターゲットはセットで考える」は、機能をよりシャープにベネフィットに翻訳するための方法です。誰にとってのありがたみなのか、利用者とベネフィットをセットで考えてみると、漠然としたユーザーを想定した場合よりも実感のある、利用者に共感してもらえるベネフィットに翻訳できます。

 「機能ではなく、ベネフィットが重要」がわかるもう一つの例が、富士フイルムのビデオテープです。1993年以前の同社のビデオテープのパッケージシールのデザインは、他社と同様に「SUPER HG 120」と商品名を前面に押し出していました。しかし1993年以降は、「ダブルコーティング技術」をベースとした「きれい録り」「重ね録り」などの「ベネフィット」を大きく表記するデザインに変更し、これが飛躍的なシェアアップにつながりました。富士フイルムは、製品が本来保有していた機能によってもたらされるありがたみを分かりやすく伝えることで、技術の優位性を生かしたヒットにつなげたのです。機能や技術がわかっていなければ上手く翻訳出来ませんから、本来技術者の方がこうしたベネフィット翻訳には向いているのです。

 さて、「きれい録り」「重ね録り」という生活者視点による言葉の選択は秀逸ですが、この言葉は、好きな洋画を録画して永久保存版したい人、毎日ニュースを録画してタイムシフトで見たい人など、利用者とベネフィットをセットで考えることで、より実感のあるメッセージになりました。

 電動缶詰切りの話もしておきましょう。そもそも電動缶詰は、「缶切りで缶詰を切るのは、力がいるし危ない」という発想から生まれました。そこで技術者は、「手動式が大変ならば電動式にしよう」と技術に注目して電動缶詰切りの開発に夢中になってしまう。しかし生活者の根本的な思いは、缶詰は中身を安全に取り出せればよいのであって、プルトップ式の缶が提供された後、すべての缶詰はそちらに移行してしまいました。

 つまり開発者は目の前の課題だけを見た改善ではなく、最終的なベネフィットは何かをターゲットに成り代わって考え抜く必要があるのです。電動缶切りの例は、目の前の課題そのものが本質的ではないことがあることを教えてくれています。それを見抜けなければ魅力的なベネフィットは設定できません。

 こうした課題を克服していくための一つのアプローチとして、私は「4Pから4Cへの転換で企画する」ことをお勧めします。マーケティングで言うところの4P、つまり製品・価格・流通チャネル・プロモーションはともすると企業視点に陥りがちです。むしろ顧客視点での4C、つまりお客様にとっての価値・コスト・利便性・対話を軸に考えていく方が顧客の立場に立ち、企業の勝手な論理への落ち込みを防ぐことができます。

 

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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