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東京理科大学専門職大学院イノベーションレビュー

なぜ、日本の技術者たちは
「iPhone」を作れないのか?
――技術者発想を断ち切るマーケティング

ニュースの深層で学ぶ技術経営戦略入門
東京理科大学専門職大学院MOT(技術経営専攻)

徳重桃子
【LECTURE Theater 2014 第2回】 2014年11月27日
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「技術」と「意味」の2つの革新を実現してこそ
生活者に支持されていく

 ベネフィット5つの原則の3つ目、「ベネフィットには、機能的なベネフィットと心理的なベネフィットがある」の、機能的なベネフィットとは、商品を購入しさえすれば誰もがありがたみを享受できるベネフィットであり、対して心理的なベネフィットとは、ターゲットによって嬉しいポイントが変わるベネフィットです。

 「ルンバ」は革新的な掃除機としての評価が定着しましたが、ルンバの機能的ベネフィットとは、購入してスイッチを入れさえすれば掃除を済ませてくれる、という点にあります。

 一方、心理的なベネフィットは、ターゲットにより異なります。「掃除嫌いのママ」にとっては、「嫌な掃除から解放される」「任せられる」などのベネフィットがあり、「掃除は手伝いたくないけれどきれいにしておいて欲しいパパ」の場合には、「ママの愚痴を聞かずに済む」「ママの掃除よりもきれい」等、ターゲットにより異なる心理的なベネフィットがあります。

 4つ目の「革新的ベネフィットは、技術的革新、意味的革新の双方からアプローチできる」は、ルンバと、これもまた掃除機の革新と言われている「ダイソン掃除機」の2つを比べると分かります。

 ダイソン掃除機は、明らかに旧来型掃除機の延長にある商品。しかしながら「衰えない吸引力」「小回りが利く取り扱い易さ」などいくつものイノベーションが取り入れられています。従って、競合するのは従来型の掃除機です。

 一方、ルンバは、掃除機ではあるのですが、その本質は家事代行です。具体的にもたらされるベネフィットは時間の節約や心理的負担の軽減、それは生活そのものの変化を促す商品です。もちろん、自動運転をコントロールするためのイノベーション技術がたくさん盛り込まれています。つまりルンバは、「技術と意味の革新によるイノベーション」を具現しています。従って、競合するのは他社製掃除機ではなく、家事から解放してくれる家事代行業者になります。

 下の図にもあるようにルンバとダイソン掃除機は、提供するベネフィットが異なるので競合しません。「クリスマスプレゼントにルンバが欲しい」と言った妻に、WEBで懇切丁寧に吸引力や静音性等の掃除機能をサーチした技術者パパが、最終的にダイソンを選んだとしたら……。ダイソンを贈られた妻の心中は穏やかならざるを得ません。逆もまたしかり。その理由、みなさんにはもうお分かりですね。

 イノベーションと言うと、技術的進歩のみを念頭に置きがちですが、昨今のイノベーションの事例を見るとむしろ、意味のイノベーションが起きた時の方が、市場に与えるインパクトは大きいものです。「iPod」や「iPhone」はその最たる例でしょう。また、ブルーライトをカットする「J!NS PC眼鏡」のように、技術的にはさほど大きな革新はなくとも、メガネをかけることの意味を変えた商品の例もあります。成熟した今日の社会では、商品やサービスの意味、なぜその商品が存在するのかアイデンティティへの問いかけとでも言える、深い問いが必要となっています。

 5つ目の「競争は、ユーザーベネフィットに向かって起きる」は、例えばインスリンを投与する方法ひとつをとっても、ペン型注射、吸引型、経口型、また最近ではバイオ人工膵島カプセルの埋め込みの取り組みがあり、それらは皆ベネフィットに向かって競争しているのを見れば、意味するところはお分かり頂けるでしょう。競争は現在利用されている技術の中で起きているのではなく、よりよくベネフィットに到達できるかで争われているのです。

 書籍から電化製品、衣類、果ては生鮮食品まで扱うようになってきたAmazonの発展もやはり生活者が求めるベネフィットに向かって進化していると考えられます。「自宅で」「24時間いつでも」からスタートしたサービスは「移動中に」「キッチンで気づいたときに」という生活者行動や買物を思いつくタイミングに沿って進化し、さらには「生活者が気づいて注文する前に自動配送」と言う所まで視野に入れています。生活者が求めるベネフィットに沿ってゆけば、その進化はとどまることがないようです。

 

 

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いかにして技術から新しい価値を生み出すのか。また、その成果をいかに正当に確保し、配分するのか。東京理科大学専門職大学院のMOT(技術経営専攻)とMIP(知的財産戦略専攻)には、教員・院生を問わず多様な人材が集い、現実の課題に基づく視点から、イノベーションを実現するための叡智が日々蓄積されている。

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