安倍晋三首相が経済政策「アベノミクス」の成長戦略の柱のひとつとして打ち出したのが、女性の活躍推進政策。女性の労働力の潜在性が大きくクローズアップされ、物流業界でも女性の活躍を期待する動きが高まっている。一方で、女性が働く上での課題の解決や企業としての環境整備も求められている。管理部門から物流現場まで様々な舞台で活躍する物流子会社の「なでしこ」に、仕事へのポリシーややりがい、課題について聞いてみた。

JR東日本物流・川沼さんを囲んで(前列中央)

「最近は女性のトラックドライバーも見かけるようになってうれしい。若い人にもどんどんがんばってほしい」と話すのは、ジェイアール東日本物流(JR東日本物流、本社・東京都墨田区、松﨑哲士郎社長)さいたま物流センターに勤務する川沼摂子さん。東日本旅客鉄道(JR東日本)の駅構内で営業するキオスクやニューデイズなどの売店に商品を配達する、女性ドライバーだ。

 さいたま物流センターの従業員約60名のうち、女性は川沼さんのみ。「誰も女性扱いはしてくれない」と笑いながらも「それがよかったのかもしれない。変に特別扱いをされるのではなく、あくまで皆と平等に仕事をしてきた」と振り返る。その上で「一人ではここまで続けられなかったはず。皆の助けがあったからやってこられた」と周囲への感謝の気持ちを忘れない。

積込みから配送、回収まで一人で担当

  川沼さんがさいたま物流センターに勤め始めたのは、2007年の4月。これまでも宅配会社や路線便会社で事務職員として働いたことはあったが、実際の運行に触れる機会はなく「いってらっしゃいと送り出してからのことはほとんど知らなかった」と話す。

 知人の紹介でドライバーとして採用され、最初に乗務したのは1tバン車。駅に設置してある専用ラックへのフリーペーパーの補充、回収業務を担当した。3年程経って業務に慣れた頃、3tロング車の運行を打診された。オートマチック車の1tバン車と違って、3t車はマニュアル仕様。運転への不安もあったが、待遇面なども考慮した結果3t車への乗務を決め、現在に至っている。

  川沼さんの業務はまず、さいたま物流センターで商品を駅・店舗別に仕分け、3tロング車へ積込むところから始まる。配送時に自分がわかりやすいよう工夫するとともに、タバコや菓子など荷姿の異なるものが荷崩れしないよう細心の注意を払う。同一駅内に複数の店舗がある場合などは誤配防止のため積み込み時にも検品をする。

  配送先の駅に到着すると、台車や階段昇降機「スピージィ」を使ってトラックから店舗まで商品を運ぶ。さいたま物流センターの配送エリアは主に埼玉県内の各駅で、京浜東北線や埼京線、武蔵野線といった主要路線を有する中、駅の規模は大小様々。乗降客が多い駅には売店も複数あり、1度の納品に2時間以上掛かることもあるという。加えて、雑誌や新聞などの返品も回収し、フリーペーパーの場合は残数を記録して新しいものと入れ替える。

 構内へ一度に運ぶ量を増やせば往復の頻度は減るが、JR東日本物流では安全性を最優先して台車への積載量を床上120cmまでと厳しく制限。荷物が重くなりすぎないようにすることと、配達スタッフが周囲を見回せる視界を確保することが目的だ。「駅では自分のペースで仕事をすることが難しい」と川沼さん。案内表示や携帯電話などを見ながら歩行する人もあり、イヤホンを付けている人には声掛けやスピージィのアラーム音が届かない。手を挙げるなどして何とか配送中であることを気づいてもらえるよう努めるが、それでも危険を感じたときは一旦台車を停めて安全を確保している。