細かい工夫、メリハリを生むちょっとした仕掛けも

 他にも、「Studio F」には、創造性を刺激したり、生産性、モチベーションを上げる知恵が込められている。

「視線」を変えて発想の「視点」を変えるのが狙い

 一部のミーティングスペースでは、フロアよりも30センチ程度かさ上げされている場所がある。「視線が30センチ高くなることで視界が変わります。これまでにない景色からものを見ることで、新たな発想を引き出すことを期待した工夫です」(石田専務)

ノンテリでも、一人で集中できる場所は必要

 オフィスの大部分がコミュニケーションがとりやすいオープンスペースだが、1人で集中したいときもあるだろう。そのために、個室で業務を行なえるスペースもある。人と向き合いながら仕事をするのも大事だが、一人で仕事に向き合うほうが生産性が上がる場合もある。そうしたメリハリをつける仕掛けもこのオフィスには施されている。

ゴミ箱もコミュニケーション向上の仕掛けの1つ

 また、通常オフィス内に数個、あるいは1人に1つあるゴミ箱は、片隅の1カ所にだけ設置されている。これは、ゴミを減らす目的に加え、何より社員たちが社内を歩き回る機会を増やすために仕掛けられた工夫。社内を歩く距離が長くなれば社員同士が接するポイントが多くなり、コミュニケーションの数が増えるというわけだ。

 役員室のスペースはあえて小さく作ってある。このオフィスのディレクターズルームは19平米に抑えられている。普段の執務はニューヨークブルーに塗られた壁に沿って設置された横長の机で行う。一般に役員室の机に座る役員は壁を背に、顔を入り口側に向けているが、ここでは逆。壁に顔を向けている。そして椅子を半回転させるだけで、打ち合わせ用のテーブルに着くことができる。役員としての威厳ではなく、生産性や効率を象徴している。

向かって奥の机はノートパソコンが置ける程度。くるりと回ればすぐ打ち合わせができる機能的設計

「都心のオフィスコストを考慮すると、大きな役員室は不要ではないかという提案です。一般的な応接セットではなくテーブルを置き、移動する時間を省いてすぐに打ち合わせに入れるように効率を重視したデザインです」

 ドアはガラス製で役員の様子が社員からよく見えるため、手空きの時間を見計らってノックする社員も多いという。

「『Studio F』を立ち上げる前に比べて、社内が明るくなりました。あちらこちらで打ち合わせをする姿が見られ、時には笑い声が聞こえます。また自由な席に座っていいと言うことは、自分で居場所、仕事のやり方を決めるということでもあります。それによって社員の自主性が高まり、新しい価値を創造しようとする意欲が高まったように感じます」(石田専務)

「Studio F」を見てきてわかるように、手を抜いた場所は一切ない。社員の考え方、働き方を考え、それを最大限に引き出す仕掛けがあちこちにちりばめられており、すべてのデザインに意味がある。

 グーグルやアップルのような創造性は一朝一夕に社内に生まれるものではない。だが、クリエイティブ・オフィスがそれを引き出す近道になることは間違いないだろう。

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