日本証券アナリスト協会は2013年6月、富裕層や事業オーナーに資産運用助言を行う「プライベートバンカー(PB)」資格認定制度を日本で初めて創設。その目的と展望を同協会の前原康宏専務理事と大澤静香部長に聞いた。

プライベートバンカー
ニーズは日本でも拡大

 プライベートバンキングとは、富裕層や事業オーナーを対象に、資産の管理・運用、税務、法律に関する助言、資産承継・事業承継、信託の活用、遺言の執行などを行う総合的な金融サービスのこと。

 野村総合研究所の分類によれば、2013年の日本の富裕層は、純金融資産保有残高が1億円以上5億円未満の「富裕層」と、5億円以上の「超富裕層」を合わせると100万世帯超、5000万円以上1億円未満の「準富裕層」も315万世帯超に上ることからも、プライベートバンキングの潜在需要は大きいと考えられる。

maehara日本証券アナリスト協会
前原康宏 専務理事(代表理事)
1974年、一橋大学経済学部卒業。81年、London School of Economics博士課程修了。74年、日本銀行入行。ワシントン事務所長、政策委員会室審議役、企画室審議役などを歴任し、2005年、一橋大学国際・公共政策大学院教授に就任。13年8月より現職。

「近年は、富裕層で大きな割合を占めるオーナー経営者の高齢化に伴う事業承継問題、15年1月の改正税制施行で相続税対策がさらに切実となったことなどから、プライベートバンキングに対する関心はますます高まっています。しかし、日本の金融機関はこうしたニーズに十分対応できていないのが実情です」

 こう語るのは、日本証券アナリスト協会の前原康宏専務理事。

 例えば、日本の富裕層の資産保有は、流動性の低い自社株や不動産が多くを占めるケースもあり、金融資産運用のみの提案ではニーズをカバーし切れない。

 また、「金融サービスにおいて、ユニバーサルバンキングの歴史が長い欧州では、銀行、証券、保険、信託などのサービスを一つの金融機関が包括的に提供できますが、日本はいまだに業際の壁が厚く、自社商品の枠を超えた多面的な提案がしにくいことも大きな課題です」と、前原専務理事は指摘する。

 近年、中小企業に後継者がなく、事業を清算し資産が分散するケースは多い。こうした事態をできるだけ回避するためにも、金融の知識に加え、税金、法律など広範な知識にたけた人材が、事業オーナーに対し最適な提案を提示できることは重要だ。

※出所:野村総合研究所の推計(2014年11月発表)