好みの違いは絵ばかりにあらず、支持されるキャラクターの設定も大きく異なる。日本女性を「胸キュン」させるキャラクターのキーワードは「オレ様」や「ツンデレ」だが、米国ではもっと女性のエスコートが巧みな男性キャラのほうが好まれるという。

 もちろん、クールジャパンとしてもてはやされているように、日本のアニメを好む層も存在するのは確かだ。しかしながら、あくまでそれは一部にすぎず、日本で制作したコンテンツの翻訳版では米国におけるマスの心を掴みにくい。

SFスタジオの制作現場

 つまり、米国向けのコンテンツをイチから創り上げなければ太刀打ちできないわけだ。こうした命題に対し、すでに米国進出を果たしている日本のゲーム会社はM&Aという手段を選択しがちだった。米国のゲーム会社を傘下に収め、日本で培ってきたノウハウを移植していくというアプローチである。

 だが、津谷会長があえて選択したのは、それよりもはるかに労力を要する方法だった。2012年5月、サンフランシスコに子会社を設立し、現地のクリエイターを雇用して米国向けのコンテンツ制作を開始。コンテンツはおろか、組織についてもまったく新たなスタートであった。

会長自ら米国拠点の
陣頭指揮を執る

 そのうえ、津谷会長は家族で米国に移住し、自ら現地で陣頭指揮に立った。それに伴って、ボルテージの全社員が驚愕する人事を発表する。創設者である津谷会長が代表取締役社長を退き、さらに夫人で創業時から苦労をともにしてきた東奈々子副社長もその職を部下に譲ったのだ。

 彼らは会長、副会長職に就任し、米国子会社に専念。代わって30代後半の横田晃洋氏、北島健太郎氏が社長、副社長となり、経営陣の大胆な世代交代が行われた。

 すでに日本国内で成功の方程式を導き出しているだけに、米国での再スタートはまったく無からの取り組みではないだろう。けれど、ひたすら無に近い部分もあるようだ。津谷会長はこう打ち明ける。

「ゼロから会社を作るというのは、本当に大変なことですよ。結局は人材育成というイチからのスタートで、日本でボルテージを設立した頃と同様の日々を送っています。こちらでも日本のフォーマットをアレンジし、人材育成に活用しています」

 とはいえ、ボルテージが恋愛ゲームにおいて日本一の会社となったのは、数々の困難を乗り越えたからこそ。日本で確立した数々のフォーマットを現地従業員に教え、SFスタジオの組織作りにも辛抱強く取り組んでいる。USオリジナルのコンテンツもすでに9タイトルに達しており、着実に前へと進みつつある。

「米国でもこのジャンルのゲームを認知してもらい、1年後の黒字化をめざしています」(津谷会長)