ステークホルダー・エンゲージメントの
新しいアプローチ

 社外から供託された資金を責任を持って運用するという点では、投資信託に近い性格を持つ。しかし、決定的に異なるのは、募金には明確なリターンがないということだ。

「私たちにとってのCSR活動は、お客さまが個人では実現できないことを、企業の力をもって実現していくものであると考えています。社会課題を解決する活動の多くは、短期的に結果の出る取り組みではないので、お客さまの募金に対する成果をすぐに示すことはできません。そのため、CSR報告書やウェブサイトなどで活動の詳細を報告していく義務が私たちにはあります」(萩原氏)

 千趣会の「えがおの森」のウェブサイトのトップページには、募金総額の最新情報が記載されている。「ハハトコ東北基金」が4309万5556円、「ピンクリボン基金」が2067万9276円、「グリーン基金」が855万2454円(2015年3月1日現在)。集まったお金と同様、使ったお金も1円台まで詳細に報告し、活動状況を説明し、細かな意見にも耳を傾けること。それが顧客からの信頼に報いるための方法であるというのが、千趣会の揺るがぬ信念だ。

 企業のCSR活動は、本業との距離感によって、ステークホルダーの納得感に大きな差が生じ、特にその活動が本業と大きく乖離しているケースには、株主や顧客によって厳しく指摘される。本業に結び付かないCSRにどのような必然性があるのかと。

 千趣会の独自の取り組みは、そのような問いに対する一つの強力な回答になっている。企業のあらゆる事業は「顧客との関係」によって成立している。事業にとって最も重要な資産であるその関係を軸としてCSR活動を展開することができれば、CSRは事業との連続線上に明確に位置付く「必然性のある」活動となり、さらには事業における顧客との関係もさらに深まっていく。また、そうした相互作用によって生まれる顧客との関係の深さ、豊かさ、幅広さが、CSR活動の内実を決定していくだろう。

 千趣会の「顧客を巻き込むCSR活動」がスタートして2年。この独自の取り組みは、これからの日本企業のCSRに一つのモデルを提示していくことになるかもしれない。