ホテル建設ラッシュが続く東京都心部。一方で、年間の訪日旅行者は2020年には2000万人とも3000万人とも予測される。おかげでビジネス出張には影響も出ている。宿屋大学代表の近藤寛和氏にビジネスホテル業界の現状を聞いた。
出張に利用するビジネスホテルに対し、ビジネスパーソンが求めるものは何か?
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マーケティングリサーチ業務を行うジャストリサーチサービスが昨年6月に実施した「ビジネスホテルに関する調査」(右図参照)によると(1)目的地に近いこと、(2)駅から近いこと、(3)客室が清潔であることが上位3条件。その他にも価格、静かな客室、インターネット環境や朝食といった点を重視していることが分かった。なるほどと思わせる結果だが、注目は「有名である(チェーン展開している)こと」という条件である。
宿泊業に特化したビジネススクールの宿屋大学代表・近藤寛和氏によると、ビジネスホテル業界は地方と東京都心部で大きな変革が起きているという。
「地方ではホテルチェーンによる地元資本のホテルの囲い込みが顕著になっていて、オセロ風ゲームのように看板が掛け替わっています」。その理由として近藤氏は「ビジネスホテルのコモディティ化」を挙げる。
「どこかが快適なベッドを売り物にすれば他社も追随する。大浴場がはやれば、どこも大浴場を造る。その結果、差別化が図りにくくなり、資本力の勝負になっているのです」
地方ではチェーン化
都心では大型化
1967年生まれ。法政大学経営学部卒業後、92年オータパブリケイションズ入社。販売部、企画・マーケティング室、『HOTERES(週刊ホテルレストラン)』編集部を経て、2009年に一事業として運営していた「宿屋大学」を企業としてマネジメントするために独立。著書に『和魂米才のホテルマネジメント ~グローバルスタンダードの成功法則~』(オータパブリケイションズ刊)、『社員が夢中になって働き出す 包むマネジメント』(ぶんか社)など。
もちろん地元資本のホテルにも良質なサービスを提供しているところはたくさんあるのだが、ビジネスパーソンの目線ではチェーンホテルの方がサービスの質が想像できるという点も「オセロ」に拍車を掛ける。そのため「チェーンホテル対独立系ホテルの割合は米国では約7対3。日本は逆の3対7ですが、今後は米国の比率に近づいていくでしょう」と近藤氏は予測する。
一方都心を中心とした首都圏ではビジネスホテルの建設ラッシュが起こっており、大型化が進んでいる。近藤氏によれば進出に強い意欲を見せているのは鉄道系だという。本業が人口減の影響を受けているため、沿線ではなく観光客の増加が見込める都心のビジネスホテルに力を入れているというわけだ。また宴会場やレストランがない(あっても朝食に特化した)ビジネスホテルは人件費が抑えられるため、利益率が50%と高い点も魅力だという。
ビジネスホテルの客室数は100~200室が一般的だが、1000〜1500室の規模も登場している。
「背景にはインバウンド(訪日旅行客)の増加があります。彼らはホテルに宿泊することを目的としていないので、シティホテルが売り物とする非日常的空間は不要。ビジネスホテルのような価格が手ごろな宿泊主体型ホテルを求めているのです」(近藤氏)