M&Aの目的は買収先企業とのシナジーの創出にある。そのためにはM&A後の統合プロセス(PMI:Post Merger Integration)が極めて重要になる。PMIの巧拙がM&Aの成否を分けると言っても過言ではないだろう。だが、日本企業はこれまでPMIに関して、十分な取り組みを行ってきたか、というと疑問が残る。PMIにいかに取り組むか──これからのM&Aは、そこが最大のポイントになる。
日本企業による海外企業のクロスボーダーM&Aは確実に増えている。今年は投資金額が1000億円以上の大型案件も目立つ。
だが、過去の例を見ると、必ずしも成功したケースばかりではない。M&Aは本来、シナジーの創出こそが目的であるはずなのに、買収後も企業価値が一向に上がっていないケースは意外なほど多い。
「日本企業の場合、M&A成立後も買収した企業との事業全体の統合や、サービスや機能の部分的な統合に長期間手を付けられていないケースもあります。こうした統合によるシナジー創出の前提となるのが、手段としての組織・人事分野のPMI(Post Merger Integration)です。国際的な競争力という観点からも、きちんとPMIを実行しないといけない時期に来ています」
タワーズワトソンの要慎吾氏はそう指摘する。
同社の場合、ディールのストラクチャーやフェーズに応じて、必要となる各分野の専門家を集めて案件ごとに最適なチームを組成する。そしてDD(Due Diligence)の段階からPMIの準備に着手し、同じチームでPMIまで一貫して行う。だからDDでしっかり問題点を把握し、スムーズにPMIの実施に入ることができるのだ。
経営者報酬部門が
ガバナンスの根幹をサポート
例えば買収した企業の経営者の報酬をどうするか。手腕を評価し、引き続き経営に当たってもらうためには「適切な額」の報酬を「適切に」支払う必要がある。その点について経営者報酬部門統括の森田純夫氏はこう説明する。
「私たちはグローバルな経営者報酬のデータベースを基に対象企業の報酬が妥当な水準か、客観的に判断することができます。外国企業の場合、ストックオプションなどの株式報酬が複雑に入り組んでいることも多く見極めが難しいことから、専門家にその評価を委ねることに一定の意義はあるのではないでしょうか。PMIという観点からは、買収後のインセンティブ設計も重要です。どこまで現地経営陣に任せるのかというガバナンスの基本を固めたら、目指す方針の実現に向けて全力で取り組んでもらう上で、賞与や株式報酬などのインセンティブが中核的な役割を果たします。グローバルに知見を持つ私たちは、買収後もこれらの設計や運用を継続的にサポートすることが可能です」
PMIでは、組織を動かす仕組みを再構築するのが一つの大きなテーマになる。「その際には人事制度といったハード面だけでなく、リーダーシップや組織文化の融合といったソフト面も大事です」と話すのは片桐一郎氏だ。
「クロスボーダーM&Aの場合、文化の違いという大きなハードルがあります。そこを相互に理解し合い、ビジョンを共有していくための環境づくりをサポートするのも、私たちの得意とするところです。そのためにワークショップで議論し合い、目標をシェアする方向で働き掛けていきます。そのためのコミュニケーション専門部隊もいます」
社員の意識調査などを定点観測的に行い、改善された点、されていない点をあぶり出し、問題が見つかれば対策を講じる。そうした取り組みを買収後数年間にわたって続けることもある。タワーズワトソンはそこまで徹底して、持続的にPMIをサポートする。