増え続ける相続のトラブル
しっかりとした知識を持つことが大切
相続をめぐっては、さまざまなトラブルが起こりやすい。ここ数年、急激に増えているのが相続人同士の遺産分割にかかわるトラブルだ。
最高裁判所の司法統計年報によると、遺産分割事件の件数は1985年の6176件から、2012年には1万5283件と約2.5倍に増えている。
「実感としては、父親が他界したときの1次相続よりも、その後に母親が亡くなって2次相続が発生したときに子どもたちがもめるケースが特に多いようです。1次相続のときは、母親が仲裁役となってくれるので何とか丸く収まりますが、2次相続のときは誰もいさめる人がいなくなるので、話し合いが泥沼化しやすいのです」と峰尾氏は語る。
“争族”とも言われる遺産分割問題を未然に防ぐためには、言わずもがなではあるが、被相続人が遺言をしっかり残すこと、そして、生前に家族できちんと話し合うことが大切だ。
「嫌なことは先送りしたいというのが人間の心情ですが、すべての家族が納得できる相続にするには、生前の話し合いが必要不可欠です。生前に財産をめぐってもめる可能性があれば、相続開始後はさらにもめる可能性が高まるということを理解しましょう」(峰尾氏)
このほか、相続をめぐるトラブルとして多いのが、相続税を納めるための現金が足りないというケース。日本では、相続財産のかなりの割合を不動産が占め、それも自宅の不動産のみということが多い。そのため、納税や遺産分割のためのお金が足りないと、泣く泣く自宅を売り払って現金化しなければならなくなることもある。
「そうした事態を避けるためには、相続前の段階で、財産の内訳と評価額をしっかり把握しておくことが大切です。不動産はいくら、現金はいくらあって、その評価額を合計するといくら相続税を納めなければならなくなるのか。相続税を納められるだけの現金は用意できるのかどうか、といったことを事前にきちんと確認しておきたいものです」(峰尾氏)
そのためには、財産ごとの評価方法や相続税の計算方法など、基礎知識をきちんと理解しておくことが必要だ。正しい知識に基づいて周到な対策を打っておくことが、トラブルを防ぐための唯一の道であると言える。
ちなみに被相続人から相続する財産には、“マイナスの財産”である借金も含まれることを意外に知らない人が多いようだ。実はこれも大きなトラブルの原因となりやすい。
峰尾氏は、「被相続人が借金を抱えていた場合、相続開始から3ヵ月以内に手続きすれば、相続放棄や限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐこと)をすることができます。ところが、手続きをせずに3ヵ月が経過してしまうと、単純承認(無条件で全財産を引き継ぐこと)をしたものとみなされ、借金をすべて抱え込むことになってしまうのです」と説明する。
相続のルールに関する最低限の知識があれば、そうしたトラブルは回避できる。やはり、それなりに事前勉強をしておいたほうが安心だろう。