IoT(モノのインターネット)が日本でも徐々に浸透してきた。業務効率やサービスの質の向上だけでなく、ビジネスモデルや産業構造の在り方までを根底から変えるテクノロジーの新潮流だ。先行する欧米では、すでに多くの企業がIoTを活用し、新たなブルーオーシャンにこぎ出している。その最新事情に迫った。
IoT(Internet of Things)は、「モノのインターネット」と訳される。言葉通り、あらゆるモノがインターネットでつながる世界を表している。電子タグや非接触ICカードに代表されるRFIDシステムがイメージしやすいが、そこにとどまらず、あらゆる認識装置や端末がネットワークにつながって相互に作用し合っている環境をいう。
ビジネスモデルや
産業構造も大きく変わる
以前から『M2M』(モノとモノとの通信およびその基盤)、『M2P』(モノとヒトとの通信およびその基盤)という類似した概念はあったが、IoTはこれらを包括するものと考えられている。
甲元 宏明
プリンシパル・アナリスト
1998年より、三菱マテリアルでグループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業では、グローバルIT責任者として欧州・北米・アジアのITを統括した。2007年より現職。「IoTの最新動向とビジネス価値」をテーマに講演活動にも実績。
「機械と機械をつなぐM2Mは、企業が独自に引いた専用回線など、閉ざされたネットワークを使うことも多いですが、ネットの高速化、セキュリティ技術の向上、クラウドサービスやスマートデバイス、ウエアラブル端末などの普及とともに、インターネットを使ってより広範囲に、地球規模で、モノとモノ、モノとヒトとがつながる環境が整ってきました。この広がりは、企業のビジネスモデルや産業構造の在り方まで大きく変える可能性があります」
そう語るのは、ITに関する調査・コンサルティングを行うアイ・ティ・アールの甲元宏明プリンシパル・アナリストだ。
米国などでは、すでにIoTを活用したサービスが実際に稼働している。甲元プリンシパル・アナリストは、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の提供するソリューション事例を挙げる。
同社は、世界中に納品した産業機械をインターネットでつなぎ、個々の機械の稼働状況や問題などをリアルタイムでモニタリングして迅速なメンテナンスサービスを実現している。また、世界中の機械から集まる情報をビッグデータ解析して、故障の予防や新製品開発などに役立てている。
「GEは、“Software-Defined Machines”(SDM、ソフトウエアに定義される機械)という考えに基づき、インターネットを通じて納品済み製品のソフトウエアを随時更新しています。従来は、機能向上のためにハードウエア自体の入れ替えが必要だったことが、IoTによってソフトウエアの更新だけで実現するのです」(甲元プリンシパル・アナリスト)
SDMへの取り組みは、EV(電気自動車)ベンチャーの米テスラモーターズでも行われている。同社のEVも、インターネット経由でソフトウエアのアップデートを行えば、随時新しい機能が追加されていく。今夏のアップデートでは、自動運転機能が追加されることが先日発表された。