歯科医師・歯学博士 篠原裕之

近頃、“コンビニよりも多い”とやゆされる歯科医院。しかし、「本当に正しい治療を行える歯科医院は非常に少ない」として日本の歯科治療に警鐘を鳴らすのが、高い技術力と高齢者歯科治療に定評のある篠原長寿歯科の篠原裕之院長だ。大事な歯を守るための歯科医院および歯科医師の正しい選び方、そして私たち患者が知っておくべき知識について、話を伺った。

 虫歯の治療を受けた後で、口の中に違和感を覚えたことはないだろうか。一般的な虫歯の治療では、歯を削った痕を詰め物で埋めたり、冠をかぶせたりして処置を行う。これで虫歯自体の治療は終わるが、歯にとっては“異物”が入った状態となり、かみ合わせに微妙なズレが生じることがある。

 ところが、患者が違和感を訴えても、多くの歯科医師はこう言うだけだ。
「そのうち慣れますよ」

歯科医は患者に正しい
情報を伝えていない

 篠原裕之院長によると、大多数の歯科医師は歯を処置することしか考えておらず、かみ合わせの正しい知識自体が欠如している場合が少なくないと言う。
「なぜなら、日本の歯科大学のカリキュラムでは、虫歯や歯周病など歯の疾患にばかり時間を割くためです。そして、かみ合わせについては理論だけをサラリと学ぶ程度。かみ合わせの不具合が心身に与える悪影響など、ほとんど教えられないままで歯科医師となるのが現状なのです」

 歯の治療後、かみ合わせの狂いが生じても数週間程度で違和感はなくなる。歯科医師が言う通り、慣れてしまうのだ。しかし、かみ合わせが治ったわけではない。顎の位置がズレ、以前とはかみ合わせが変わった結果、違和感が消えただけなのだ。

「この不具合を放置していると、顎関節症のリスクが高まります。そして、口が開きにくいなどの症状の他、頭痛や眼精疲労、不眠など、さまざまな不調が現れます」

 大学では学べなくても、医師となった後で自ら学べばより良い治療を提供することは可能だ。日本口腔外科学会などの専門医となり、研究の幅を広げる歯科医師もいる。

「近年では日本歯科医学会でも、かむ、のみ込む、話すなど口腔機能と歯の両面の治療に向かうべきだという流れが生まれつつあります。とはいえ、歯科材料メーカーなどのセールストークに踊らされ、患者本位の治療ができていない歯科医院も珍しくないのが現実です。全ての歯科医師が変わるには時間がかかる。そこで重要になるのが、知識を持った患者さんの存在です」