超高層ビルの
エレベーターは地震対応
ビルの躯体は大地震でも耐えるとはいえ、昨今求められるBCP(事業継続計画)に対応できるかどうかは別問題だ。
宮村教授は「重要業務が継続できるような環境の確保と、何よりも社員の安全確保が重要」と説く。「そのためには、建物躯体の被災程度の把握が前提となり、最近ではさまざまなモニタリング技術の開発も進んでいます。その上で、必要な機能を維持するための対策が求められます。例えば、非常用電源が確保できた場合でも、通常は72時間という時間制限があるし、100%の電力が供給されるわけではありません。エレベーター、コンピュータ、照明、トイレ水の駆動など優先順位を決めておく必要があります」。
エレベーターを例に取ろう。非常時に何台稼働するのかも大切だが、社員の安全確保という面では、エレベーター内の閉じ込めを防ぐ仕組みが導入されているのかが重要である。最新のエレベーターには、初期微動を感知した時点で本震が来る前にエレベーターを最寄り階に停止させるとか、長周期地震動によって建物と共振するロープが引っかからないよう機器にプロテクタを設置したり、振れ幅の大きさに応じた管制運転を行う仕組みなどが導入されている。停止した場合は、遠隔操作によって短時間で仮復旧運転を行い、停電時も自家発電で避難階まで移動させる機能もある。エレベーターの閉じ込めリスクをなくせば、その分リソースを他の優先事項に集中させられるだろう。
夜間に発生した場合
社員をどう集める?
地震は社員が会社にいる日中に起こるとは限らない──。宮村教授はこう警告する。
「BCPは昼間を想定していることが多いようですが、夜間に発生した場合、どのような手段で人員を会社に集めるのかを決めておかなければなりません。徒歩圏内には誰が住んでいるのかを把握したり、途中の被害が甚大で本社まで到達できない場合、支社に集めて本社機能を移すといった計画を立てておく必要があるでしょう」
昼間に発生した場合は、帰宅困難者の受け入れという問題が起こる。東京都は13年に「帰宅困難者対策条例」を施行した。従業員を会社内にとどまらせるために3日分の水や食料などの備蓄や、行楽客のような行き場のない帰宅困難者を民間の施設で受け入れるよう求めている。それを受けて、最新の超高層の高機能ビルでは、帰宅困難者受け入れスペースに転用することを想定したイベントホールなどを設ける例が増えている。
BCPを機能させる最良の手段は、防災機能が整った高機能ビルにオフィスを構えることになるだろう。想定される大地震の被害を最小にとどめることができ、事業継続に必要な機能維持のためのリソースの確保も容易だ。