不遇の時代を乗り越えた
経営陣の気骨にも賛辞を

手染めが際立つ切りっ放したエッジが印象的。ブリーフバッグ4万4280円〈デュモンクス/サムソナイト・ジャパン TEL0800-12-36910〉

 レナウンは70年代に入ると、時機に投じて毎年のように紳士服工場を設立した。大阪、静岡、鹿児島……香港や韓国へも進出し、最盛期にはその数は七つに上った。

 アラン・ドロンを引っ張り出したCMは世の男を魅了した。“ダーバン、セ レレガァンス ドゥ ロム モデルヌ”というせりふは団塊世代なら誰もが覚えているに違いない。バブル崩壊後の非情な情勢の変化に対応すべく、工場を一つ二つと閉鎖し、そうして残ったのがダーバン宮崎ソーイングだ。

『ダーバン』の生産を一手に引き受ける格好となった宮崎ソーイングは、ハンガーシステムや立ちミシンに象徴される効率化を推し進める一方で、2003年より新卒採用を復活した現在は20代が4割を占める。5年後には職人養成をうたうマイスター制度を確立、手仕事の継承はめどが立った。10年には装いも新しくタグにMADE IN JAPANと刺繍した。

『2~3年で形にはなるけんど、
ダーバンのスーツはそこから先なんじゃ』

ダーバン宮崎ソーイング
高度な次元で融合する機械仕事と手の技

宮崎空港から高速道で1時間弱。山深い地にあるダーバン宮崎ソーイング。提携工場を含めると従業員数500人を数えるこの国内最大手のスーツファクトリーは機械と手の仕事が高度な次元で融合している。体系的な人材育成の仕組みを確立したマイスター制度も評判だ。最多の資格取得数を誇る能島修一氏(下写真真ん中)は父も宮崎ソーイングの技術者だった

 宮崎ソーイングは紳士服飾業界では知られたナンバーシックスの系譜を引く。ナンバーシックスとは米国で最高峰のファクトリーに与えられた勲章だ。本国でも栄に浴したのは数えるほどだったが、宮崎ソーイングの前身となる大阪の枚方にあったニシキはその一社だった。マイスター制度を監修したのは枚方時代の技術者で、彼らは退職してもなお若々しさを失っておらず、月に1週間の割合で宮崎へ指導に訪れている。

 伊勢丹の鞄売り場で常に上位にランキングされる鞄ブランド『デュモンクス』は大阪の家内工業的ファクトリー数社で作られている。今回訪れた工房は70歳を超える4人の兄弟が切り盛りしていた。

『兄弟4人で鞄作り続けて、
みんな70を超えてしもうたわ』

デュモンクス提携工場
街場の鞄工房では職人技が当たり前

デュモンクスの2000年のローンチ以来、製造を担当しているのは大阪の阿倍野からほど近い住宅街にある鞄工房だ。この道30年を超えるデザイナー、岡田仁志氏(下写真左)が全幅の信頼を置くその工房はとうに70歳を過ぎた4兄弟が中心となって現場を回している。どの作業も無駄がなく、そして目にも留まらぬほど早い。ほれぼれとする手さばきだ

 大阪は大黒町に革問屋があって、かつては雨後のたけのこのように鞄の工房が誕生した。革小物を商った祖父に続き、2代目が取り組んだ学生鞄が好評を博し、ビジネス鞄へとジャンルを拡大。兄弟4人が立ち働く中、その息子の一人で工房を取り仕切る4代目は「綱渡りの連続でした。家族だからなんとか持ちこたえられた」と語るが、中国でできない手の込んだ仕事が評価され、揺るぎないポジションをつかんでいる。

着心地を左右する部位に惜しむことなく手の仕事を取り入れた“丸いスーツ”は着心地抜群である。2Bスーツ10万6920円〈ダーバン/レナウン プレスポート TEL03-5468-5640〉

 中伝毛織は同業者がこぞって織機を手放す中逆張りした。目を付けたのは革新織機だ。ここ十数年、織物の世界はションヘルという19世紀後半に開発されたプリミティブな織機か、エアージェットの二極化の様相を呈していた。対する革新織機はションヘルと遜色ないふっくらとした風合いを実現しつつ、生産能力もある。この秋、『伊勢丹』に並ぶスーツに採用されたツイード地は本場スコットランド産に劣らぬ質の高さだ。この中高級ウール織機の欧州三大メーカー、ドルニエ、ピカノール・ガンマ、イテマが全てそろうのは、世界広しといえども中伝以外にない。しかも、その数72台に上る。

近い将来、日本は
職人の聖地になり得る

 さて、息を吹き返しつつある日本の製造業にはどのような未来が待っているのだろう。決して平たんな道のりではないが、花開く可能性は十分にあると思える。

 これまで、日本のプライオリティーは正確無比なモノづくりにあり、欧州と比べると味わいが足りないといわれていた。しかしそれは過去の話で、世界の名品が一堂に会する日本で育った若者は感性の部分でもかなりいい線をついている。一時、他の追随を許さなかったあのイタリアでさえ、製造現場は深刻な後継者難に直面している。手の仕事を生かしたモノづくりにおいては必然的に日本が浮かび上がるというのが、下駄を履かせずに見た予測である。

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