「nLDK」に特有の
中廊下型に変化あり
夫婦の寝室の確保に加え、子どもたちにもそれぞれの個室を与えたい。「nLDK」普及はそうした「家族思い」の表れでもあった。
「個室を確保、という考え方自体は、世界的に見てもごく一般的です。日本独自なのは、個室の確保とともに、中廊下型の住宅が生まれたことです」
昔の日本の住まいは、どちらが上手でどちらが下手という、“場の序列”が明確だった。戦後の住宅は、そうした封建的な序列を嫌い、廊下に平等に個室が連なる形に切り替わった。
「長いこと、廊下のある住まいは近代化のイメージそのものでした。ところがこのスタイルは世界的にはまれです。大金持ちは別として、普通の住まいなら玄関を開ければリビングやホールなど、みんながいる場所になるのが一般的なのです」
日本の住まいはn(個室数)とLDKで構成されているだけでなく、中廊下も重要な構成要素だったわけだ。
「この中廊下型が今、見直されており、2000年前後からリビング階段(注)が急速に広まっています。親子の一体感を重視する意識が高まってきた結果、『親がいる居間を通り抜けないと個室に行けない』式の、居間中心型が増えてきたためです。これには、住宅の断熱性能が上がり、吹き抜けなどの大空間が一般化してきたという、技術的な背景もあります」
家造りは家族の
「希望」の表れ
「仮に家造りが、家族の実態を表しているとすれば、子どもが個室を必要とする中高生になれば、親子の接触は非常に少なくなってくる。親の目を気にせず個室に出入りする中廊下型の方が、実態には合っています。しかし家造りは、実態よりも『希望』を表します。家族の一体感を大切にしたいという気持ちが、リビング階段に象徴されているのです」
現在、設計の自由度が高い戸建て住宅では、居間中心型を選択する人が増えている。開放感のある間取りは、家族の一体感に対する希望だけでなく、暮らしていて気持ちが良く、伸びやかな気分になる。
ただし、新築マンションは相変わらず、中廊下型が主流だ。
「これも日本特有の事情です。海外では2住戸か3住戸に1個の階段やエレベーターが付く形が多いのですが、日本は長い共用廊下にずらりと住戸が並ぶ、板状のマンションが多い。南に面した部屋をできるだけたくさん取りたいという事業者側の都合が優先されるため、間口が狭いうなぎの寝床状の間取りになりがちなのです」
マンション暮らしで居間中心型を求めるのなら、新築ではなく、中古物件を買ってリノベーション(改修)する手もある。