99%の確率で
乳がんを予測
「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発」プロジェクトは、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を得て、2014年度から5年間をかけて行われる国家プロジェクトだ。落谷氏を責任者として国立がん研究センターの他、全国8大学が共同実施施設となり、一方で東レや東芝など4法人が検査機器の開発に当たる。さらに国立長寿医療研究センターも参画。マイクロRNAが、老化現象にも深く関与している可能性があるからだ。
プロジェクトでは、胃がんや食道がん、肺がん、乳がんなど13種類のがんに関与するマイクロRNAを特定する。13種類は、日本のがん死亡者のほとんどを網羅するものだ。具体的には、国立がん研究センターのバイオバンクや共同実施大学などには、患者の同意を得て集められた膨大ながん(血清)検体が保存されている。これらを分析して、どの種類のマイクロRNAがあるかをデータベース化。その解析により特定のがんと特定のマイクロRNAのプロファイル(因果)を明らかにしていく。1種類のがんについて5000検体、延べ6万5000検体を調べる。
15年度中に2万5000検体の解析を終了する予定で、すでにいくつかの重要な成果が生まれている。例えば、乳がんでは1200検体を解析したが、この段階で二つのマイクロRNAの出現を見るだけで99%の確率で発病を確認できた。大腸がんでも80%の確率で早期大腸がんを発見できるマイクロRNAの存在を突き止めた。
「乳がんの発症には六つのマイクロRNAが関与しているとみられますが、あるアルゴリズムで考えると2種類のタイプの存在で99%の確率になります。しかもステージ0の段階でも98%の確率です。マイクロRNAの検査による早期診断が、1次スクリーニングとして非常に有効であることが証明されました」
より簡便により確実に
広がる応用分野
マイクロRNAによる簡便な検査キットの開発も進められている。人間ドックや健康診断レベルで気軽に簡単に検査できるようにするためだ。検査は血液や体液が1滴もあれば十分なので、検査への抵抗感はないに等しい。
落谷氏は、「マイクロRNAの研究により、医療分野でさまざまな革新的な手法が誕生する可能性があります」と語る。「例えば、緩和治療への応用です。痛みに関与するマイクロRNAを特定できれば、それに対応した医薬を開発できます。人類が、痛みから解放される時代がくるでしょう。また、2588のマイクロRNAのバランスが崩れるから人は病気になったり年を取ったりするのであれば、マイクロRNAの変化を防ぐ機能性食品も開発できるかもしれません」。
がん治療を支える早期診断は、今、まったく新しい地平を歩み始めている。