「スーパーマリオ」が一転“怪物”
ドラギECB総裁誤算のなぜ

2015年12月18日公開(2015年12月17日更新)
加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長]

 第一に、ドイツ勢の強い反対が存在したようだ。筆者は今ドイツ・フランクフルトにいるが、「この時期に追加緩和の必要はない」とドイツ勢が考えていた様子があちこちから感じられる。ドイツの経済指標は堅調で、ユーロ圏全体としてもそう悪くない。「南欧経済が脆弱なのは金融緩和の不足ではなく、生産性の低さなど構造問題にある」とドイツ勢は考えている。

 また、ドイツの大手自動車メーカーであるフォルクスワーゲンのスキャンダルは、「ドイツのマクロ経済を脅かすほどの問題ではない」との見方が今は主流だ。シリアからの難民の増加は、短期的には財政支出を増やすので、それも目先の経済には刺激となるという。

 第二に、ジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が年内の利上げ開始を示唆する発言を繰り返しているため、ドイツ勢をいさめる勢力がECB内に出てこなかった面もある。FRBが利上げを始めるなら、ECBがユーロ安誘導を行う必要性が薄れるからである。

 第三に、追加緩和策を市場に早くから織り込ませたことで、皮肉なことにドラギ総裁は足をすくわれてしまった。10月以降の彼の発言で、国債市場で観察される先行きの期待インフレ率は上昇を始めた。それを見てドイツ勢は「期待インフレが上がっているのだから、デフレの心配はない」と主張した可能性がある。公的セクターの賃金が来年上昇することも、ドイツのデフレ懸念を後退させている。

 市場関係者からはもう一つ別の視点からの指摘も聞かれた。「先行き起こるかもしれないテロへの警戒手段として、今は追加緩和策を温存しておく方がいい」と考えた加盟国がいた可能性もあるという。

 フランスや英国に比べると、ドイツの人々のテロへの警戒は意外に強くない。ただ、年末セールでにぎわう人混みで大規模なテロが発生したら、ユーロ圏の消費は急激に萎縮する恐れがある。グリンチの話をしている間はご愛嬌だが、そういった状況での追加緩和策投入にはなってほしくないものだ。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

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