クルマそのものよりも
世界観を見せる

 消費者に向けたメッセージも、クルマそのものよりも、ブランドの世界観を見せることにこだわっている。東京・南青山に一昨年オープンしたブランド体験施設「INTERSECT BY LEXUS」(インターセクト・バイ・レクサス)には、クルマが展示されていない時も多い。ラグジュアリーなインテリアに触れる、カフェでくつろぐ、パーティに参加するなど、レクサスの世界観を見せていく場なのだ。

「ここでは、レクサスに乗っているお客様にはこういったライフスタイルがいいんじゃないかなと思う世界を演出しています。もちろん、押しつけるのではなく、お客様に問いかけて一緒にブランドの世界観をつくっていく価値創造マーケティングを目指しています」

 テレビCMや動画配信なども積極的に行っているが、ここでもレクサス車自体の登場はひかえ目になっている。トヨタ自動車が世界で販売する約1000万台のうち、レクサスは60万台程度。万人受けする広告では効果は期待できない。より想像力をかきたてブランド価値を高める広告を、という考えのようだ。

 たとえばいま流れているCMには、地面から浮遊するスケートボードのような「ホバーボード」が登場して、バック・トゥ・ザ・フューチャーが現実になったと話題になっている。1年以上もの時間と多くのお金と技術を投入して完成にこぎつけた。その情熱は感動的だ。

 ほかにも、次世代の監督を用いた短編映画の制作、若手デザイナーを支援するデザインアワードの設立など、新しいブランディングに向けた取り組みを世界中で始めている。

「『レクサスには乗っていないけど、レクサスというブランドは好きだ』というファンを増やしていくことも重要」と話す高田氏。新しい時代のラクジュアリーブランドを確立するための活動は、始まったばかりだ。

(取材・文/河合起季 撮影/有光浩治)