「ケルンの事件によって、ドイツ国内の世論には変化が見られるようになりましたが、個人的に一番大きく変わったと感じる点は、これまで公共の場所で口にすることが憚れていた話題を、遠慮することなく話すようになった人が増えたことです。事件が発生したケルンだけの話かもしれませんが、事件発生からまだ間もないため、難民に対する反感が市内に少なからず存在することは間違いありません」

 ケルン事件が発生する以前から、ドレスデンに本部を置き、ドイツ各地でイスラム教徒の移民受け入れに反対するデモを繰り返す反イスラム団体「ペギーダ」は、パリの事件後、SNSを中心にメルケル政権の移民・難民政策を激しく非難した。2014年秋に開催されたペギーダ主催の反イスラム集会の参加者はわずか数百人だったが、最近では1万人を超えるものも珍しくない。

 また、移民排斥を公式には掲げてはいないものの、反EU派の政党「ドイツのための選択肢」の支持率上昇も話題になっている。難民受け入れをめぐる議論が続くなかで支持率を伸ばしていたこの政党は、テロ事件の数日後にドイツ国内で行われた世論調査で支持率が初めて二ケタ台に到達。今年、ドイツでは16州のうち5州で地方選挙が実施され、来年の総選挙の行方を占う前哨戦と位置づけられているが、「ドイツのための選択肢」の躍進は必至だ。

 前述のフィッシャー氏が、「ドイツのための選択肢」の影響力について説明する。

 「難民問題を抱えるヨーロッパ諸国で極右政党の台頭が目立つようになっているが、残念ながらその傾向はドイツにも存在する。保守政党の『ドイツのための選択肢』は議会で約12%の議席を確保しており、極右政党NPD(ドイツ国家民主党)の支持者も一定数いる。難民政策により直接的な影響を与えられると考えたNPD支持者の一部は、『ドイツのための選択肢』に鞍替えを始めている」

 難民受け入れの中心地となったドイツだが、メルケル首相の掲げる難民政策は間違っていたのだろうか? ドイツ国内で最近実施された世論調査では、約4割が「メルケル首相は難民受け入れ問題の責任を取って辞任すべき」と回答した。

 EU内の動きに詳しい、ドルトムント工科大学ジャーナリズム研究所のユリア・ローネンドンカーさんは、メルケル首相に批判が集まっても、彼女抜きで難民問題に対応するのは困難だろうと語る。

 「ドイツは様々な問題を抱えていますが、最近のメルケル首相の支持率低下の原因は、彼女の難民受け入れ政策のみだと言っても過言ではありません。難民問題に対する彼女の対応をめぐっては、身内の連立与党からも批判が噴出しており、野党の社会民主党の方が彼女の政策に一定の理解を示すという奇妙な現象が発生しています。ドイツ国内でのメルケル首相に対する風当たりは強いですが、難民問題に関して彼女抜きでヨーロッパ諸国をまとめ上げるのは困難で、ドイツ国内における支持率低下が彼女の難民政策に致命的な打撃を与えることはないだろうと報じる国内メディアもあります」

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北欧諸国は受け入れコストに「これ以上は無理」

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