春が来れば、再び欧州への難民流入は急増する。受け入れるEU側は国による温度差や国内世論の二分などで一枚岩とはいえない。写真はマケドニア北部の一時避難所からセルビア国境に向かう難民たち Photo:AP/AFLO

難民の流入が止まらないヨーロッパだが、昨年11月にパリで発生した連続テロ事件と、大晦日にドイツのケルンで発生した集団性的暴行事件によって、難民に向けられる視線は大きく様変わりした。難民政策に対するフラストレーションは、西欧や北欧で右翼政党を結果的に躍進させ、難民や移民に対する反動が起こり始めたようだ。(取材・文/ジャーナリスト 仲野博文)

冬の終わりとともに、
難民の大量流入が再開する

 ザグレブ在住で、クロアチア国内外のメディアでジャーナリストとして活躍するバルバラ・マティチッチさんが現在のクロアチアの様子について語る。

「昨年11月からバルカン半島各国では、シリア、イラク、アフガニスタンの旅券を所持しない保護申請者に対しては、入国を認めない方針をとっています。難民の一時収容施設は、クロアチアには現在1ヵ所しかなく、スラヴォンスキ・ブロッド(セルビアとボスニアの国境近くの町)という町に作られています。最近、この施設を取材で訪れたのですが、施設にいる難民が本当にシリアやイラクから来たのかを、方言やアクセントの違いに詳しい通訳がチェックしています。

 ただ、経済的にあまり魅力のないクロアチアに滞在しようと考える難民はほとんどおらず、クロアチアはあくまで西ヨーロッパへの通過点にすぎません。永住はおろか、長期滞在を考える難民もほとんどおらず、難民や移民の排斥を訴えるデモなどは全くありません。今年1月に発足した新政権は経済政策を優先させており、国内に唯一ある収容施設もコスト上の理由から近い将来閉鎖するのではという見方もあります」

 国連難民高等弁務官事務所の発表によると、2015年中に海路でヨーロッパに上陸した難民は100万人を突破。夏から秋にかけて、電車や徒歩で西ヨーロッパを目指す多くの難民や経済的移民の姿は日本でも連日報じられた。厳しい寒さが予想される冬の間は、ヨーロッパにやって来る難民の数が減少するという見方もあったが、「国境なき医師団」は昨年末、12月だけでギリシャに到着した難民が10万人に達したと発表。ヨーロッパの冬も難民の流入を激減させるには至らなかった。春の訪れとともに、ヨーロッパを目指す難民の数は再び増加する見込みが高い。難民流入の新シーズン到来を前にして、ヨーロッパ各国の対応には温度差がある。

 マティチッチさんが語るように、クロアチアのように難民の通過点/移動ルートとなっている国にとって、難民問題は国内で大きな社会問題として取り上げられているわけでもない。しかし、難民が最終目的地として目指す西欧や北欧の国々にとっては、時間の経過に比例して受け入れる難民の数も増加。受け入れの許容範囲がパンクする危険性もすでに指摘されており、難民受け入れをめぐる他のヨーロッパ諸国の消極性や、難民そのものに対して、国民のフラストレーションが溜まりつつある。