人口減少などで財政状況が厳しさを増す中、政府は公共分野に民間の力を導入する方針を打ち出している。その大きな柱として注目されているのがPPP/PFIだ。政府は10年間で12兆円規模のプロジェクトを推進する目標を掲げており、すでに空港などの大型施設のみならず、廃校施設などの公的不動産での活用事例も増え始めている。PPP(公民連携)/PFI(民間資金の活用)の現状と今後の展望について、同分野の第一人者である根本祐二・東洋大学教授に話を聞いた。

根本祐二
(ねもと・ゆうじ)
1954年鹿児島県生まれ。78年東京大学経済学部卒業、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。2006年同行地域企画部長を経て、東洋大学経済学部教授に就任。同大学PPP研究センター長を兼務。著書に『朽ちるインフラ』(日本経済新聞出版社)、『「豊かな地域」はどこがちがうのか』(筑摩書房)などがある。

 国民の豊かな暮らしを政府や自治体が税金を使って実現する「大きな政府」が大きな転換点に差し掛かっている。少子高齢化が進む中、もはやこれまでのような財源は期待できない。東洋大学PPP研究センター センター長の根本祐二教授は今後のあるべき姿について次のように説明する。

「日本は小さな政府の方向に進まざるを得ませんが、とはいえ、財源が縮小するからといって公共サービスのレベルを一気に落とすことは現実的ではありません。『豊かな公共、小さな政府。間をつなぐPPP』と私は良く言うのですが、実際、公共サービスの拡充と財源の縮小という相反する課題を解決できるのはPPP以外には考えられないと思います」

 日本にとっては、インフラの老朽化も切実な問題だ。高度成長期に集中的に建設されたインフラが、これから更新の時期を迎える。そのコストを全て税金で賄うのは困難であり、ここでも民間の力が期待されている。

英国の“第三の道”から
PPP/PFIが注目

 PPP/PFIに注目が集まるようになったのは1990年代後半からである。

「97年にスタートした英国のブレア政権は、労働党伝統の大きな政府に回帰するのではなく、“第三の道”を掲げ、PPP/PFIにより民間の力を活用しようと考えました。同じような手法は比較的早く欧米に広がりましたが、日本はほぼ10年遅れという印象です」(根本氏)

 欧米では、多くの事例が積み重ねられている。有名な事例の一つが、南仏の渓谷をまたぐ「ミヨー橋」である。主塔の高さが343メートルに達する高架橋で、PFI方式で建設された。

「単に交通のための橋なら、これほどの高さは必要ないでしょう。この橋には観光資源としての役割も与えられており、実際、魅力的な風景が多くの観光客を集めています。民間企業ならではの自由度と知恵は、コスト抑制と売り上げ拡大の両面で期待されていますが、ミヨー橋は売上拡大を目指した事例といえるでしょう」と根本氏は語る。

 しかし、周回遅れだった日本政府も、ここに来てPPP/PFIへの取り組みを加速させている。

 2011年のPFI法改正の後、13年には「PPP/PFIの抜本改革に向けたアクションプラン」が策定された。同プランは13~22年までの10年間で、12兆円規模のPPP/PFIを推進するとの目標を示している。

 現段階で先行しているのが空港の分野だ。関西空港と伊丹空港、仙台空港、福岡空港、新千歳などの基幹空港で運営権の売却を伴うPFI案件が進行中だ。また、廃校施設の活用などの公共資産活用型PPPで実績が増えているほか、今後は上下水道でも民間の役割が期待されている。

「受益者負担で収入が見込める事業として、上下水道はPFIを導入しやすい分野です。多くの自治体が踏み出せば、将来は多くの地域で事業を展開するPPPサービスプロバイダが生まれるかもしれません」と根本氏。空港や上下水道などさまざまな分野でPPPサービスプロバイダが成長すれば、スケールメリットやノウハウの横展開などによる一層の効率化が期待できるだろう。

 PPP/PFIは、地方創生の動きにも関係する。廃校施設だけでなく、有効活用されていない公的な不動産は全国各地にある。

「眠っている不動産は、観光施設や野菜工場などさまざまな用途に使えるでしょう。例えば、新潟県南魚沼市は庁舎の一部をヤマト運輸に賃貸する形で、コールセンターを誘致しました。これにより、100人規模の雇用が生まれたそうです」(根本氏)