年金の運用環境は比較的良好な状態が続いてきた。しかしここへ来て、アメリカの利上げや原油価格の下落、中国不安などさまざまな要因が重なり、株式・債券ともに市場の不確実性が高まってきた。効率的な資産運用に向けて、年金基金の担当者は何を検討し、どのような対策を講じるべきか。タワーズワトソン・インベストメント・サービスの五藤智也氏に伺った。

収益率が良好な一方で
株式を減らす傾向は継続

タワーズワトソン・インベストメント・サービス
代表取締役社長 兼 コンサルティング部長
五藤智也

TOMOYA GOTO
明治生命保険を経て、2000年にタワーズワトソン(旧ワトソンワイアット)に入社。インベストメント部門において、企業年金などの機関投資家に対するALM、 運用方針・戦略の策定、運用機関の選定、ガバナンス構築などのコンサルティングおよび運用機関の調査・評価に従事。2014年7月より現職。

 企業年金の運用は、リーマン・ショック以降、おおむね良好な状態が続いてきた。

 タワーズワトソン・インベストメント・サービスの代表取締役社長 兼 コンサルティング部長の五藤智也氏によると「当社が四半期ごとに行う調査の2015年12月末時点の結果を見ると、過去5年の企業年金の収益率は、中央値で年率6.62%となっています」という。

 リターンの目標を2~3%程度とする企業年金が増えている中、これを大きく上回る結果だ。年金給付のための債務に対する積み立ての水準についても、一部の基金では100%を上回り、余剰がある状況になっている。

 一方で、同社の調査からは、企業年金の資産配分について意外な実態も明らかになった。「10年以上にわたって株式の比率、特に国内株式の比率は下がり続けています。直近の数年は、アベノミクスのような株式の上昇相場があり、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が株式の保有比率を引き上げるニュースも話題になりましたが、それ以前からの傾向に大きな変化はありません」(五藤氏)

 過去には50%を超えていた時代もある株式の比率だが、すでに30%を下回っている(2015年12月末時点)。ITバブル崩壊やリーマン・ショックを経て、想定外のリスクを回避する動きが継続していることになる。

 この影響で、増加傾向にある投資先の一つとして、外国債券が挙げられる。国内債券よりも高い利回りが見込めることに加え、世界的な低金利を背景として為替リスクのヘッジ・コストが下がったことも影響している。ただし、国内債券より相対的に高いだけであって、外国債券の利回りといえども十分とはいえない。そこで、ヘッジ・ファンドなどのオルタナティブ(代替資産)にも注目が集まっている。

戦略的には3つのトレンド
その理解度には懸念あり

 五藤氏によると、運用会社が掲げる戦略には3つのトレンドが見られるという。最初に挙げられるのは「マルチアセット」だ。幅広い資産に投資し、資産配分を機動的に調整することで、投資環境にかかわらず長期的に絶対リターンの獲得を目指すタイプである。

 次に、世界的にも人気の高い「スマート・ベータ」がある。運用戦略は、主に時価総額ウェイトのベンチマーク(TOPIXなどの指標)への連動を目指すパッシブ運用と、ベンチマークを上回ることを目指すアクティブ運用の2つに大別されるが、スマート・ベータはこの中間に位置するイメージだ。

 3つ目は「絶対リターン型の債券運用」だ。これはアンコンストレインド(制約のない)ともいわれ、その名の通り、ベンチマークを意識せず、金利リスクを回避するような調整を柔軟に行う戦略である。

 いずれも有効な戦略である一方で、五藤氏は、それぞれの特徴を深く理解し、起こりうるリスクを正しく認識する必要性を指摘する。

「マルチアセットは、絶対リターン型といっても、株式に投資している場合は基本的に株価の影響を受けます。必ず期待通りのリターンが得られるわけではありません。また、絶対リターン型の債券運用は、運用機関のスキルに左右される部分が大きい戦略ですが、金利上昇対策程度の認識で導入されているケースが見受けられます。たしかに、一般的に金利リスクを回避する運用を行う戦略ではあるものの、信用リスクを取る傾向にあるため、株式との相関性が高い点を見落とさないようにしたいところ。スマート・ベータは、一見シンプルですが、具体的な導入となると留意すべき点が少なくありません。導入を検討する戦略の特徴やリスクを、しっかり確認すべきです」