6つに分けて課題を整理
まず目的や信念を明確に

 このように、企業年金の運用においては、今後の金利変動や株式市場の下落といったリスクに対応するための試行錯誤が続いている。具体的な対応について、五藤氏は、以下の6つのテーマに分けて順に課題を整理することを提案する。
(1)最も重要な意思決定へのフォーカス
(2)リスクの取り方
(3)競争優位性
(4)コスト効率
(5)ポートフォリオ構築
(6)市場環境

 まず検討すべき(1)では、長期の目標リターンなどそもそもの目的を明確にする。さらに根源的な部分で、たとえば長期の視点で株式が上がるか下がるかといったことにも信念を持ち、計画を立てていく。計画を立てることで、想定外の事態が起こった場合のリスクをどこまで許容するかも検討できるようになり、(2)が具体的に設定できる。

 (3)は、基金の担当者が専門性を高めたり、人的リソースを増やしたりといったことであり、意思決定のプロセスを改善することなども含まれる。逆に、競争優位性を高めるのは難しいという判断の下、シンプルなパッシブ運用に徹する選択肢も考えられる。

 低金利などの背景を踏まえれば、(4)のコスト効率がこれまで以上に重視されるのは明らかだろう。(5)については、見落としがちなポイントが多いという。たとえば、株式のアクティブ運用を取り入れる場合、単純にリターンが高いものを選んで安心してしまう傾向があるが、プロダクトの組み合わせも重要であることは見逃されがちな点だ。(6)は、あらゆる資産でリターンの見込みが低くなっていることや、不確実性の高まりなどを認識する必要性のことである。

 五藤氏は、特に(1)の重要性を強調する。「目的や信念が明確でなければ、他の課題への対策も決められません。それ以上に避けたいのは、運用の方針がブレてしまうことです」

 リーマン・ショックの前後にアクティブ運用のパフォーマンスが落ち込んだ際、安易に資金を引き揚げた基金が、その後のリターンの回復を取り損ねた事例は典型的だ。目的や信念が明確でないだけでなく、担当者のローテーションの頻度が高いことなど、構造的な要因も考えられる。

「企業は企業年金に対し、自社の金融子会社であるというマインドセットを持つべきです。仮に数千億円規模の基金であれば、1%のリターンでも数十億円の違いが出るわけですから。現場の担当者だけでなく、CEOやCFOの方々にも、これまで以上に力を入れるべき分野であるという認識が広がることを願っています」(五藤氏)