知的財産の価値が企業のみならず、国の発展に大きく関与することは前世紀末から言われ続けてきた。だが、欧米など知財先進国との格差はいっこうに縮まっていない。背景には「知財」そのものよりも、これを「活用」する仕組みの不備があるという。はたして、真の問題点は何なのか。知財マネジメント研究の第一人者である妹尾堅一郎氏に聞いた。
国際競争モデルは
インプルーブメントからイノベーションへ
製品やサービスにダイレクトにかかわってくる技術や知識。これらをシンプルに「知」と呼ぶのならば、「その知を活かす知・使い切る知」が日本には決定的に欠けていると妹尾堅一郎氏は言う。
欧米先進国はこの一点において強烈なアドバンテージを有しており、東アジアのライバル国や新興国の間でも、「知を活かす知」が浸透し始めている、と。
「『知財ソリューション』『知財マネジメント』という言葉を『特許を取得し、その価値を向上させること』だと考えているとしたら、それは間違いです。残念なことにこうした特許至上主義、すなわちプロパテント発想の人がいまだ日本には多い。しかし、世界はとっくにプロイノベーションの時代を迎えているのです」
妹尾氏は国際競争モデルが、「インプルーブメント・モデル」から「イノベーション・モデル」へと変容したことが、知財活用にも大きく影響したのだと説く。20世紀までのビジネスは、既存の技術や製品や知識自体を磨けば競争に勝てる時代だった。日本が急成長したのも、インプルーブメント=「改善・練磨」が得意だったからだというのだ。