今後は単独世帯が増加
賃貸住宅需要は底堅い

吉崎誠二
不動産エコノミスト

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了、立教大学大学院博士前期課程修了。船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estateビジネスチーム責任者を経て、独立。不動産・住宅関連分野のコンサル業務、データ分析、市場予測などを行う。主な著書に『データで読み解く 賃貸住宅経営の極意』など。

 しかしながら、ここで素朴な疑問が生じる。日本の総人口は、12年を境に長期の人口減少過程に入っており、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、35年には1億1212万人程度まで減少する。人口が減れば、賃貸住宅の需要も減るのではないだろうか。

「賃貸住宅の需要を論じる際には、人口そのものよりも世帯数を意識した方が、より現実的で正確な判断ができます。一般的には、1世帯に一つの住居が必要だからです」

 例えば、15年対比(15年を100としたとき)の35年の将来世帯推計数は、東京都で0.7%減、愛知県0.9%減、大阪府6.5%減、福岡県5.2%減となる。同じ条件で35年の将来推計人口を見ると、東京都で5.1%減、愛知県5.7%減、大阪府11.5%減、福岡県9.7%減である。これと比すれば、世帯数の減少割合はずっと低いことが分かる。

 吉崎氏はさらに、世帯構成に着目する。少子高齢化や晩婚化による「単独世帯」「高齢者の単独または夫婦のみ世帯」の増加と、離婚率の上昇などによる「ひとり親と子世帯」の増加だ。図3~5は、それぞれの将来世帯推計数である。

「大都市の単独世帯の約7割は賃貸住宅に住んでいます。つまり単独または2人世帯の増加は、賃貸住宅需要の底堅さを示しています。今後は、現役世代の単独世帯は一般賃貸住宅に、高齢者の単独または夫婦のみ世帯はサービス付き高齢者向け住宅など、シニア対象の賃貸住宅に住むことになっていくでしょう」

実績豊富で信頼できる
パートナー企業を選ぶ

 では、どんな賃貸住宅なら、資産の安定運用ができるのか。「勝てる賃貸」に必要な要素を教えてもらった。

「まず外観の良さです。今はインターネットで探しますから、ネット映えすることが重要です。居室に関しては、『水回りなどの設備』『セキュリティ』『収納』が三種の神器。収納は、狭い部屋でも狭いなりに工夫がされているということです。加えて、インターネット環境が整い入居してすぐに使えるといい。特に若い世代は、賃貸住宅はイージーに住めることを求めます」

 つまり、入居者の心をつかむ物件であることが大切で、それが結果的に入居率を高めることになるという。

「賃貸住宅経営の極意は、極力空き室を出さないことです。例えば空き室が複数出れば、それらの家賃が得られないだけでなく、賃貸住宅全体の賃料を下げざるを得なくなるかもしれない。こうした事態を避けるには、ここに住みたいと思わせる魅力と、一度住んだら出たくないと思わせる魅力の二つが必要。特にファミリー世帯の場合は後者が大事で、だから設備や収納がポイントになってくるのです」

 さらに、投資物件を買うにしても建てるにしても、頼れるパートナー企業を選ぶことが不可欠だという。

「精密なマーケティング調査で、さまざまなタイプの賃貸住宅の市場ニーズやエリアの特性を把握し、適切な賃料や、5年後、10年後の確度の高い利回りを提示できる会社を選ぶことです。また、その後工程を担う管理・運営会社選びも大事です」

 そうした企業を見極める目安の一つは、「実績があること」だと吉崎氏。実績があることは、信頼性の高いデータを豊富に持っていることにつながるという。

「もう一つ、セーフティネットとして一括借り上げ制度を使うのはいいのですが、『一括借り上げなので安心』を最優先する会社は避けた方が無難です。それよりも、『一緒に空き室の出ない建物を考えていきましょう。私たちがサポートします』という姿勢の企業の方が安心です」