デジタルメディアが持つ「納得させて動かす力」

――デジタルメディアの力をどう使ったのでしょうか?

松田 まず商品ありき、のマーケティングはいっさい排除しました。「一度垂れたバストは二度と戻らない。しかし、ジャストフィットしたブラジャーを付けていれば、それを防ぐことは可能だ」というキーメッセージを、テレビ番組や新聞記事などへPRである「情報クリエイティブ発信」として展開しました。

ワコールや商品の名を大きく露出するのではなく、ニュートラルな事実情報を多様なメディアに提供。広告や販売促進ではないうえに、ワコール人間科学研究所の長年の蓄積データのリアリティは、他にないインパクトがあったことから、情報は新聞では記事として、テレビでは情報番組の女性に向けたトレンド情報の一つとして取り上げられていきました。

その結果、私自身がそうであったように「なんとなく不安を感じてはいるものの、事実を真剣に考えたことはなかった」という女性たちが、興味を示していきました。

このPRという「ソーシャルメディア」での情報発信を徹底することで、社会に「バストエイジング」のムーブメントを起こし、ブラジャーカテゴリーの売り上げ全体のアップに成功できたのです。

ただし、“翻訳”がうまくいっても、それだけで生活者は“行動”へと直結しません。そこで鍵を握ったのがウェブをはじめとするデジタルメディアでした。

なにかテレビや雑誌などで気になる情報を聞くと、私たちってネットで検索しますよね。何げない行動様式ですが、これが現代人の事実確認作業になっていると思います。検索した結果、ブログやツイッターに取り上げられていたり、ウェブサイトが立ち上がっていることで、生活者は情報を信頼します。

もうここまでの段階自体が能動的な行動ですが、とにかくそうして得た情報がきちんと価値のある内容だったとき、「お店に行ってみよう」という行動が起きるんです。