新たなマーケットを求めて海外進出に挑む中小企業が増えている。経済成長が著しい途上国で日本企業が培ってきた技術やサービスを生かすチャンスが巡ってきたからだ。ただ、現地の法制度や文化・習慣の違いという参入障壁は意外と高い。現地政府機関の協力を得て進める社会課題解決ビジネスのように単独では難しいケースもある。現地の事情に精通した信頼できるパートナー選びが重要だ。

多様な業種の企業が独自の判断で海外進出

  海外子会社を持つ企業数は、「2018年版中小企業白書」によるとリーマンショック後の2009年に一度減少したものの、総じて増加傾向にある。このうち中小企業の割合は、01年の68.2%から徐々に増え、14年には72.4%に達している(下図参照)。

海外進出する中小企業は年々増加している

「2018年版中小企業白書」より (注)1.ここでいう直接投資企業とは、海外に子会社(当該会社が50%超の議決権を所有する会社。子会社または当該会社と子会社の合計で50%超の議決権を有する場合と、50%以下でも連結財務諸表の対象となる場合も含む)を保有する企業(個人事務所は含まない)をいう。また2.ここでいう大企業とは、中小企業基本法に定義する中小企業者以外の企業をいう

 中小企業の海外進出が活発化しているわけだが、山口義行立教大学名誉教授は次のような二つの傾向があると言う。

 一つは、進出企業の多様化だ。以前は大企業の海外進出に下請け企業が帯同するパターンが多く、製造業が中心だった。しかし、最近は多様な業種の中小企業が独自の判断で進出し始めている。

「それは、途上国の所得水準が上がり、国民がより良いサービスを求めるようになったからです。例えば、中国では高級車に乗る人が増えていますが、それにふさわしい洗車サービスがない。タイでも高級ブランドの服を着る人が増えていますが、それにふさわしいクリーニング店がありません。こうした中間層向けサービスを低コストで提供するのは、日本企業にとってお手のもの。大きなビジネスチャンスといえるでしょう」(山口名誉教授、以下同)

 もう一つは、中小企業が技術を提供し、JICA(国際協力機構)などの協力を得て途上国の社会課題解決を図るようなビジネスの増加だ。

 例えば、交通渋滞と大気汚染が社会問題となっていたラオスの世界遺産都市ルアンパバーンでは、三輪電気自動車を定時・定路線で運行させる低公害型公共交通システムを稼働させた。その技術を提供しているのは愛知県一宮市の中小企業だ。

「このように社会基盤を一から創り出すようなビジネスを、中小企業でもJICAやコンサルティング会社の協力を得ながら実現できるようになっています。その経験で獲得した技術やノウハウ、人脈は今後の海外ビジネスに大いに役立つはずです」