世界10カ国の司法の場で争われているアップルとサムスン電子(以下、サムスン)の知財紛争は、いまも激しい攻防が続いている。両社の主張を検討することで、知財のさまざまな側面が見えてくる。同時に、新しい時代の知財戦略を考える上での重要なケーススタディーにもなる。東京理科大学大学院MIP教授の藤野仁三氏は、このケースをMIPの「標準化戦略」の授業(2012年度後期)で取り上げる。その講義内容をコンパクトにまとめておとどけする。

デジタル時代の知財のあり方とは?

 アップルとサムスンによる知的財産権をめぐる紛争は、2011年4月、アップルの先制攻撃で始まりました。サムスンのスマートフォン「ギャラクシー」やタブレット端末「ギャラクシータブ」が、「iPhone」や「iPad」を擁するアップルの知財を侵害していると訴えたのです。

東京理科大学専門職大学院
MIP・藤野仁三教授
日本技術貿易株式会社および米総合法律事務所モリソン・フォースター東京オフィスにて技術移転、海外知財法制調査、海外訴訟支援などを担当。2005年から東京理科大学大学院MIP教授。著書に『特許と技術標準』などがある。

 アップルは各国の裁判所に販売差し止めの仮処分を申請。米国の連邦地裁は一部のサムスン製品についてこの主張を認ましたが、サムスンはすぐに高裁に上訴して仮処分の取り消しを勝ち取りました。オランダやオーストラリアでも、同じような経過がありました。

 両社の戦い方を見ると、そこには大きな違いがあります。サムスンのそれは特許が主体です。メーカーとしての長年の蓄積をベースに、通信はもちろん、テレビや携帯機器に関するあらゆる特許を用いてアップルへの反撃を試みています。伝統的な製造業のアプローチと言えるでしょう。

 これに対して、アップルは特許だけに依拠するのではなく、特許と意匠、商標を組み合わせて攻めています。代表的な論点の1つがトレードドレスです。この概念は、飲食店のチェーンを思い浮かべると分かりやすいでしょう。それぞれのチェーン店には、特徴的な看板や店のロゴ、店構えなどがあります。それらを一見することで、消費者は「あの店だ」と認知することができる。そうした識別のための表面的な要素群がトレードドレスであり、米国では商標として保護されています。

 アップルは、スクリーン上のアイコンレイアウトなどもトレードドレスに含まれると主張しています。ただし、トレードドレスは世界的に認められた権利ではありません。アップルはこのような新しい権利も含めて、デジタル時代に適した新しい知財のあり方を問おうとしているのでしょう。