昨年、新サービスが相次いでローンチされたことで、日本でもストリーミング型の定額制音楽配信サービス市場が活気づいている。1曲またはアルバム1枚ずつをダウンロードして、デバイスに保存するのではなく、オンラインでいつでも自分の好きな曲をストリーミング再生するモデルは、世界の音楽市場のトレンド。日本市場の現在とこれからを、独自のサービスを提供する「KKBOX」にフォーカスしながら考えてみよう。

八木達雄 KKBOX JAPAN LLC代表2000年代、KDDIにて、着うた®、着うたフル®、LISMOといったauの音楽サービスを立ち上げ、2013年よりアジア最大級の音楽配信サービスKKBOXの日本代表を務める。

2015年はストリーミング型音楽配信の元年だった

 音楽配信の「ダウンロードからストリーミングへ」という流れが年々明確になってきている。世界3大メジャーレーベルの一つ、ワーナーミュージック・グループでは、2015年1~3月期のストリーミングによる音楽の売上げが、ダウンロードの売上げを初めて上回ったと発表している。2015年は日本のストリーミング型定額制音楽配信サービス元年ともいわれるが、ではなぜ2015年だったのだろうか。定額制聴き放題音楽配信サービス「KKBOX」を展開する、KKBOX JAPAN LLCの代表、八木達雄氏に伺ってみた。

「世界の音楽ソフト市場と比較した場合、日本はやや特殊です。パッケージCDの売上げ比率が他国よりも高いため、レコード会社が音楽配信に慎重な姿勢を見せていました。昨年は、大手レーベルがストリーミング型音楽配信への門戸を開いた年であり、そうした背景もあって、新たなサービスがいくつも生まれたのだと思います」

 とはいえ、楽曲が完全に開放されたわけではなく、慎重な姿勢を崩さない場合も多い。「それでも」と八木氏は続ける。「選択肢とユーザーが増えていけば、状況はどんどん好転していくはず。今後に関しては楽観的な見通しを立てています」

「アジア最大」の定額制音楽聴き放題サービス

 ここで「KKBOX」の概略について触れておこう。月額定額制の音楽聴き放題サービスを開始したのは2004年。台湾からのスタートだった。2004年といえば、日本では「着うたフル®」を各キャリアが競っていた頃で、同じ頃、音楽聴き放題サービスを開始していたのだから、その早さはちょっとした驚きである。

KKBOXのホームページ。スマホ、タブレット、PCとデバイスを選ばないスタイルが魅力的だ。HPはここから

「創業者のクリス・リンはシリコンバレーで起業したベンチャー起業家です(特別インタビューはここから)。当時、台湾では音楽の違法ダウンロードなどが横行し、CDの販売が激減していました。音楽好きだった彼は、そうした状況を見かね、定額で音楽が聴き放題になる『KKBOX』を立ち上げます。レコード会社もアーティストも、違法ダウンロード対策に頭を悩ませていたため、好意的に受け入れられたそうです。以降、スマートフォンの普及が後押しとなり、09年には香港、11年にシンガポール・マレーシア、13年にはタイ、日本でサービスを開始しています」

 現在、「KKBOX」は500以上の音楽レーベル、権利者と提携し、アジアでの楽曲配信数は約2000万曲。年間で50億回以上再生される、アジア最大の音楽聴き放題サービスへと成長している。台湾生まれのサービスであり、C-POP(中華圏のポップスの総称)、K-POPに関してはもちろん世界最大級。では日本のレーベルは? とたずねると、「そこが我々の強さでもある」と八木氏は言う。自信の背景にあるのは、ここに至るまでの経緯だ。

背景には日本国内で培ったネットワークがある

 八木氏はもともと、KDDIがauユーザー向けに提供していた音楽配信サービスに携わっていた(LISMO unlimited powered by レコチョク)。スマートフォンの普及に合わせ、より柔軟なサービスへ発展させるため、パートナーを模索していたとき、出会ったのが「KKBOX」だった。その時のことをこう振り返る。

「音楽に対する情熱がヒシヒシと伝わってきたのを覚えています。また、日本でサービスを行うには、レコード会社や権利者、そしてアーティストとの信頼関係構築が欠かない中、『KKBOX』はそうした部分をとても丁寧に取り組んでいました。日本市場との親和性も高いと判断し、パートナーとなる決断をしました」

 2010年、「KKBOX」はKDDIの連結子会社となり、翌年にはKKBOXの配信システムを利用して楽曲を配給する「 LISMO unlimited powered by レコチョク」として、日本でのクラウド音楽サービスを開始している。そして、13年にサービスブランドを「KKBOX」へリニューアル。auユーザーだけでなく、全キャリア・マルチデバイス対応の定額制音楽聴き放題サービスの本格運用を始めている。つまり、世界に先駆けて台湾で生まれたテクノロジーと、KDDIが日本国内で培ってきた実績、ネットワークが一つになることで、「KKBOX」は独自の立ち位置を確立しているのだ。