アベノミクス効果で個人マネーが積極的な運用に動きだす一方で、今後の増税や物価上昇に備えて資産を殖やす必要性も高まっている。今考えるべき資産運用をファイナンシャル・プランナーの藤川太氏に聞いた。

「節約」相談から
「投資」相談へ

家計の見直し相談センター
藤川 太

自動車メーカー勤務を経て、ファイナンシャル・プランナーとして独立。家計相談のスペシャリスト。『サラリーマンは2度破産する』『貯まる! 資産3倍手帳』など著書多数。

 アベノミクス効果で“世の中が変わった”などとよく言われるようになったが、個人からの家計見直しや資産運用の相談に応じるファイナンシャル・プランナーの藤川太氏も、変化を肌で感じる一人だ。

「これまでは節約ややりくりに関する相談が圧倒的に多かったのですが、今年に入ってからは『株や不動産に投資したいが、どんな運用をすればいいか?』というお客さまが増えました。1月ごろまではまだ疑心暗鬼……というムードだったものの、2月以降はもう投資の相談ばかりが寄せられている状況です」(藤川氏)

 この流れはしばらく続くものと予想される。というのも、アベノミクスでは2%のインフレ目標、つまり物価引き上げを明言して大規模な金融緩和策を取っており、その結果として株や不動産が値上がりする“資産インフレ”が起こる可能性が高いからだ。

「物価はじわじわと上がっていくはず。それは円安による影響が大きいからです。近年の主要な通貨の動きを見ると、その大まかな方向性は各中央銀行が市場に供給した通貨量によっています。リーマンショック後は欧米がどんどん通貨を供給したのに対し、日銀の動きが鈍かったため円高になりました。日銀の大規模金融緩和で、今後はそれと真逆のことが起こるわけですから、強力な円安トレンドになるはず。すると、あらゆるものを輸入に頼る日本の物価は、必然的に高くなります」

 同時に賃金もアップすれば問題ないわけだが、多くの企業はボーナスを増やす傾向にあるとはいえ、固定費となる基本給を大きく上げることは考えにくい。そのため「景気回復ムードで気分が高揚しても、依然家計運営は厳しい家庭が多くなるかもしれません」というのが藤川氏の考えだ。

インフレに強い資産に
投資しよう

 物価が上がれば、相対的に下がるのが現金の価値。長らく続いたデフレ時代には、物価が下がる分、現金には価値があり、預けっ放しにしていても目減りする恐れはなかった。しかし、ひとたびインフレに突入すれば、デフレ時代の常識は覆される。

「日々のお金の出入りを“フロー”、預貯金などの金融資産を“ストック”と呼びますが、とりわけ認識を改めなければならないのはストックの扱いです。デフレ時代なら預貯金のままでもよかったわけですが、これからは知恵を絞って“インフレに強い資産”に資金を回さないと、損をしてしまうリスクが高くなります。もちろん、賃金が増えないのに物価が上がるわけですから、ともすれば出ていくお金が多くなってしまう。よって、フローに関してはデフレ時代と同様に引き締めていくことが重要となります。つまり、家計は依然として引き締めつつ、運用のことも考えなければならない難しい時代が到来したということです」(藤川氏)