私たちの体は「免疫」というきわめて優れたメカニズムを備えている。人間の免疫系は能力と安全性が厳しくチェックされ、「攻撃」と「寛容」を使い分ける。中でも注目されるのが、寛容のメカニズムだ。夢の治療と期待される「免疫寛容導入療法」の開発に成功した順天堂大学医学部の奥村康特任教授に、免疫系の行動を司るシステムについて聞いた。

免疫を作るリンパ球には
優等生と劣等生がいる

順天堂大学医学部
特任教授
奥村 康

順天堂大学医学部特任教授(免疫学講座)・アトピー疾患研究センター長。1942年生まれ。千葉大学医学部卒、同大学院医学研究科修了。スタンフォード大学医学部留学、東京大学医学部講師を経て、84年より順天堂大学医学部免疫学講座教授。医学博士。2000年、順天堂大学医学部長。サプレッサーT細胞の発見者。ベルツ賞、高松宮賞、安田医学奨励賞、ISI引用最高栄誉賞、日本医師会医学賞などを受賞。免疫学の国際的権威である。著書に、『腸の免疫を上げると健康になる』『免疫のはなし』『免疫』『「不良」長寿のすすめ』など多数。

 ウイルスや細菌、O―157のような毒素等々……私たちの体にはこのような病原体が侵入する。これら無数の“外敵”に対して、Aウイルスなら「Aウイルス攻撃部隊」、Bというばい菌なら「B菌攻撃部隊」というように、特異的に反応して攻撃・排除するのが、免疫システムの最大の特徴である。

 その仕組みは、「自分」と「自分でないもの」を区別して、「自分でないもの」を排除しようとするものである。自己と非自己を厳密に区別できるからこそ、外部から侵入した病原体を攻撃することができ、自分を守ることができるのだ。

 ではいったいどのようにして、免疫細胞はそのような特異性を身に付けるのだろうか。

「免疫システムを担うのはリンパ球です。これは、体の中を絶えずぐるぐる回っていて、一つの命を持って動き回る動物のような存在です。ですから、正しい行動をするように教育されなければなりません。その教育は胸腺で行われます。胸腺は胸骨の裏側で心臓の上に位置し、免疫細胞が分化成熟するために必須の臓器です」

 免疫学の第一人者である順天堂大学特任教授、奥村康氏は、免疫システムの基本をこのように説明する。

「胸腺は、いわば免疫大学。次々と入学してくる未熟なリンパ球に、自分自身の標識(HLA抗原)を教えて、この標識が見えたら攻撃してはならないとたたき込みます。同時に、それ以外の無数の抗原に対する多様な処し方も付与し、それらの能力を試す厳しいテストを課して優等生だけを卒業させるのです。