東京都公立小卒業者の国私立中学進学率は上昇傾向
首都圏の中学受験ブームに最も大きな影響を与えるのは、人口規模や中学受験率の面から東京都だといえます。ある大手進学塾の推計による2026年度入試の都県別の中学受験率は、東京都30.9%、神奈川県15.3%、千葉県9.9%、埼玉県8.7%と、東京都が突出しています。
その東京都では、公立小学校卒業者の進路状況調査を行っており、それを過去10年間の推移で示し、ONETES(旧社名は首都圏中学模試センター)発表の首都圏中学受験率と比較したものが【図1】です。
【図1】東京都内公立小学生の国私立中学への進学率
本稿で扱う「中学受験率」は受験行動そのものを示す指標(国私立中学受験者/公立小学校卒業者)であり、「国私立中学進学率」は実際に国立・私立中学校へ進学した割合(国私立中学進学者/公立小学校卒業者)である点にご留意ください。
ONETES集計の首都圏全体の中学受験率(オレンジ線)は、本コラム冒頭でも触れた通り、ここ数年高止まり状態です。
中学受験を経験しても合格を勝ち取れなかった受験生や、合格を勝ち取ったものの、一般公立中学校に進学した受験生もいます。【図1】は実際に国私立中学に進学した受験生の割合(青線は「進学先が都内+都外」、緑線は「進学先が都内」)を示しています。
【図1】を見ると、東京都の公立小学生の「都内+都外」の国私立中学進学率(青線)は上昇を続けています。一方、「都内」の国私立中学への進学率(緑線)は、2025年3月卒業者において減少しています。都外中学への進学も含めた青線は上昇していることから、都外校に進学した生徒の割合が増加しているのだとわかります。青線と緑線の差異(都外の国私立中学への進学率)は、2021年までは1.5ポイント程度でしたが、2022年以降は1.7→1.8→2.2→2.7ポイントと拡大しています。都内の小学生でも、他県の学校も進学先として検討し、実際に進学しています。
一般入試の解禁日は、神奈川県は東京都と同じく2月1日からですが、埼玉県、千葉県、茨城県は1月です。ひと昔前まで1月入試は「お試し受験」「事前入試」「前受け」などとして、2月入試を「本番」と捉え、その予行演習的な側面がありました。しかし、今後の都内受験生は、都内以外の学校の受験・進学を意識した学校選びが必要になってくるでしょう。
1人あたりの平均出願数は過去最高水準に
それは、1人あたりの平均出願数にも表れています。【図2】の通り年々増加し、2026年度入試では8.00校となりました。
【図2】1人あたりの平均出願数
2021年度は前年度よりも減少していますが、コロナ禍による遠方校への出願控えがあったと考えられます。その後の年度では、確実に一人あたりの平均出願数が増加しています。某大手進学塾では、塾生の2026年度一人あたりの平均出願数は8.23、(実際の)受験数は6.22と【図2】を超えています。午後入試実施校の増加や、前項で触れたように(主に東京都の受験生にとっての)1月入試が「お試し」ではなく、「合格したら通う」学校として出願するケースが増えていることが大きな要因だと考えられます。
私立中学受験では、前半戦の入試で合格を勝ち取った場合には、以後の出願校の入試を欠席する場合が少なくないため、出願数≒受験数である一般的な私立高校入試と異なり、出願数=受験数とはなりません。
一方、入試の前半戦で思うような結果が出なかった場合は、出願数=受験数となる場合や、追加出願をする場合も出てくることから、不測の事態に備えて幅広く学校に足を運び、比較検討しておく必要があるといえるでしょう。
東京都内でも温度差があり、その差は拡大
【表3】は、東京都で国私立中学への進学率が高い20市区です。ここでいう進学率は、各市区の公立小学校卒業生数を分母とし、各市区から都内国私立中学と都外中学(中等教育学校も含みます)へ進学した人数を分子として算出した比率です。
【表3】東京都の自治体別の進学率ランキング
(公立小学生の国私立中学への進学率)
2021年度入学生→2025年度入学生は、全都で20.6%→23.0%(2.4ポイント増)、23区は25.7%→28.7%(3.0ポイント増)、市部は11.8%→12.4%(0.6ポイント増)と偏りがあり、26市のうち9市は減少しています。
国私立中学進学率で上位を占める市区の顔ぶれは、2021年度と2025年度の入学生ともに、ほぼ同様です。この20市区の2021年度入学生→2025年度入学生は30.4%→33.8%(3.4ポイント増)と、区部平均よりも伸びています。
都心区は私立中学受験を選択する割合が高く、受験文化(みんなが受験するから自分も受験したい)や、経済的背景が影響しているのです。【図4】の通り、所得水準と国私立中学進学率には強い相関関係が認められます。一般的に都心部に住んでいる家庭は所得水準が高めで、中学受験の準備にかかる費用を捻出しやすく、結果として国私立中学への進学率も高まるのでしょう。
【図4】都内市区別の所得水準と国私立中学進学率の関係
【表3】の(e)列に注目すると、2021年と比べて進学率が大きく上昇したのは北区の7.1ポイント増です。北区は東京で最も教育水準が高いとされる文京区に隣接しており、その影響を受けて教育意識の高い家庭が流入しています。また、赤羽駅や王子駅を中心に、JRの京浜東北線、埼京線、宇都宮線、高崎線、東京メトロ南北線などが利用でき、都心や城北エリアだけでなく、埼玉県の私立・国立中学校への通学が非常にスムーズな点も、伸びている理由であると考えられます。そして【表3】の(b)(d)列から、進学率上位の文京区や千代田区も上昇が目立ちます。
北区を含めたこれら3区は、【表3】(f)列のように学校数も多く、いわゆる「中堅校」も少なくありませんので、近年の「中堅校人気」によって存在が見直され、進学率を押し上げた可能性もあります。受験難関校とは異なり、中堅校は近隣地区居住者の入学者が多い傾向にあるからです。
2027~2028年度は競争が強まる可能性が高い
【図5】は、東京都教育委員会が発表した「令和7年度 公立学校統計調査報告書【東京都公立学校一覧】」小学校総括表をもとに、2025年度の小学校6年生(2026年度中学1年生)を100%とした場合の増減推移を示したものです。5年生が、2027年度の中学受験学年にあたります。
【図5】東京都内公立小学生の推移
東京都全体(全都)で2025年度6年生(2026年度の中学受験に臨んだ学年)よりも、2026年度6年生(2027年度中学受験に臨む学年)のほうが増加しています。そして【表3】の国私立中学への進学率が高い20市区(水色線)の伸び率が3.4ポイント増となっていることから、東京都内生の中学受験率は上昇するのではないかと見ています。
進学率の高い市区は【表3】の(e)列に示した通り、進学率はおおむね上昇しています。それらの市区の小学生数が増加していることから、受験率そのものも、高止まりまたは上昇する可能性が高く、特に【表3】に挙げた20市区においては、首都圏全体・東京都全体以上に体感的な競争が強まる可能性は高いと考えられます。
都内公立小学生数は、その後減少に転じますが、2026年度の4~5年生(【図5】の4年生・3年生)あたりまでは、都内生の中学受験は厳しさが継続するのではないでしょうか。
中長期では少子化が市場構造を変えていく
少なくとも短期的(数年間)には「高止まり〜数値以上に厳しさが増すように感じる」状態となりますが、中長期では「受験者数減少と学校側の再編」が同時進行すると考えられます。
少子化による私立大学の定員割れや規模縮小問題が話題になっていますが、少子化の波は大学受験よりも6年早くやってきます。東京都も例外ではなく、【図6】のように、都内公立小学生は2026年度卒業生をピークに減少していきます。
現在の年長児から低学年世代が中学受験期を迎える頃には、受験者数の減少と学校側の再編・淘汰が同時に進行する局面に入る可能性があります。
【図6】都内公立小学6年生数の推移
2026年度の年長さんが小学6年生になる時には、2026年度小学6年生よりも1万7,789人減と8万5,000人を割り込み、さらに数年で7万5,000人程度まで減少するのです。
東京都ですらこのような予測値ですから、神奈川県、千葉県、埼玉県の少子化はますます深刻です。このため、残念ながら募集停止や募集規模縮小を行う私立中学が出てくることは確実です。中学受験ブームといわれる2026年度・2027年度入試でも、ひっそりと募集停止に踏み切った東京都や神奈川県の中学も出てきているのです。
「量の縮小」と「質の競争激化」、そして変わらないこと
中学受験は、学校を選択できるというメリットがあります。どのような大人に育ってほしいのか、中高生時代にどのような経験を積んでその後の人生につなげたいのかは、ご家庭によって異なるでしょう。
東京大学をはじめとする難関国立大学への合格実績を重視するご家庭と、海外大学の合格実績を重視するご家庭では、選択肢に入ってくる学校が異なります。
長年にわたって積み重ねてきた社会的評価は今後も変わらないだろうという「ブランド」重視の考えのご家庭がある一方で、新しい教育法や体験活動をどんどん取り入れていく「新興校」に魅力を感じるご家庭もあるでしょう。「非認知スキル」を高める学校を重視する、生徒の「多様性」を重視するという考え方もあるでしょう。大学付属(系属・提携)校で、10年間じっくりとわが子を成長させたいという考え方もあります。
少子化に伴う受験生数の減少(「量の縮小」)を見据えて、各校の教育の「質の競争激化」はすでに始まっています。特に「中堅校」や「地元校」では生き残りをかけて、新しい取り組みを行い、学校改革に着手するケースが多いようです。
英語や理数教育、情報教育に力を入れ、探究学習やPBL(Project Based Learning、Problem Based Learning)型の学びの導入、課外での学習フォロー、情操教育、中高大連携など、各校の学校案内を読み、HPを閲覧しても似たようなことが書かれています。しかし、学校によって「何を大切にしているか」「どのように運営しているか」「雰囲気」は、私は毎年100校近くの学校に足を運んでいるのですが、異なっていると感じます。
だからこそ、「ご家庭が何を大切にしたいのか」を軸に、学校に直接足を運んで、実際の授業や教職員・生徒の様子を肌で感じてほしいのです。平均出願数が8校の時代ですから、自宅から通える範囲であれば他県の学校も視野に入れ、それ以上の学校に足を運んで比較検討することをお勧めします。
将来、どの学校が生き残っていくのかは、お子さんの現在の年齢によっても状況が異なり、特定することはできません。しかし、学校で実際に学ぶのは、保護者ではなくお子さんです。そのお子さんが魅力を感じて、充実した中高生時代を過ごせそうな学校、未来を生き抜いていく力がつきそうな学校こそが、お子さんにとってよい学校である点は、時代が変わっても共通しているのではないでしょうか。

