総予測2024#18Photo:William_Potter/gettyimages

一部の新興国が通貨安懸念から再利上げに追い込まれるなど、難しい対応を迫られた2023年の新興国経済。底入れの兆しもあるが、「外需の押し上げ」も限定的とみられるため、24年も難しい舵取りが続きそうだ。また、24年の新興国は選挙ラッシュの1年でもあり、政策の変化にも注意したい。特集『総予測2024』の本稿では、第一生命経済研究所の西濵徹氏に23年の新興国経済について解説してもらった。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濵 徹)

23年は世界の貿易量が減少
外需の低迷が景気の足かせに

 2023年の世界経済は、けん引役不在の状況が続いてきた。中国が22年末にゼロコロナ政策の終了にかじを切ったにもかかわらず、勢いを欠く推移を見せたことに加え、コロナ禍後の景気回復をけん引した欧米など主要国も物価高と金利高の共存が長期化する中で頭打ちの様相を強めたからだ。

 さらに、ここ数年の米中摩擦や、デリスキング(リスク低減)を目的とするサプライチェーンの見直しも重なり、世界貿易は萎縮の度合いを強める展開が続いた。その結果、経済構造面で輸出依存度が相対的に高い新興国経済は、外需の低迷が景気の足かせとなる状況に直面した。

西濵徹・第一生命経済研究所 経済調査部主席エコノミストにしはま・とおる/2001年一橋大学経済学部卒業、国際協力銀行(JBIC)での実務を経て、08年第一生命経済研究所入所、15年4月より現職。

 商品高の動きは一巡するなど、世界的にインフレ圧力が頭打ちに転じる動きが見られたものの、欧米などではインフレが高止まりする展開が続いている。そのため、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融引き締めを追い風にした米ドル高圧力がくすぶり、新興国においては資金流出圧力を受けた通貨安が輸入インフレを招く懸念が収まっていない。

 結果として、インフレ鈍化を受けて多くの新興国中央銀行が22年来の利上げを休止したほか、インフレ鈍化が進む中南米諸国などでは一転して利下げに動く流れも見られる。一方、一部の新興国は通貨安懸念から再利上げに追い込まれるなど難しい対応を迫られた。

 なお、足元では世界貿易を取り巻く状況に変化の兆しが出ている。24年にかけては一転して底入れの動きを強めることも期待され、新興国の外需を取り巻く状況が変化する可能性はある。

次ページ以降では、24年の新興国経済の鍵を握る金融政策についてのシナリオを分析。また、24年は台湾、インド、南米各国など多くの新興国で「選挙イヤー」となるが、その動向についても解説する。