総予測2024#93Photo by Kazumoto Ohno

ウクライナ戦争が長期化する中、イスラエルと武装組織ハマスとの軍事衝突も起きている。世界大戦へと発展するのか。特集『総予測2024』の本稿では、リーダー国家不在の世界を「Gゼロ」と形容し、ロシアのウクライナ侵攻を“予見”していた、国際政治学者のイアン・ブレマー氏に戦争の行方、2024年の米大統領選、米中対立の着地点について聞いた。(国際ジャーナリスト 大野和基)

「週刊ダイヤモンド」2023年12月23日・30日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

ヨルダン川西岸地区では
パレスチナ人への暴力が激化

――イスラエルによるガザ地区への地上作戦が展開されています。戦争は長期化するのでしょうか。戦闘地域が拡大し、第5次中東戦争が起きるのでしょうか。

 そうならないことを望みます。ヨルダン川西岸地区では、パレスチナ人に対してイスラエル人の移植者からの暴力がますます激しくなっています。イスラエル北部のレバノン国境では、ヒズボラとの戦いがエスカレートしています。そのどれもが地域限定の戦闘のようには思えませんし、さらに私を悩ますのは、解決に向かういかなる軌道にも乗っていないことです。

 イスラエル側はハマスを殲滅したいと言うけれど、爆破を繰り返すだけでどうやってハマスを殲滅するのか分かりません。逆にすこぶる過激な思想を持った人を増やしているだけです。テロリスト組織のリーダーを排除しようとすると同時に、和平への条件を創出しなければなりませんが、それができていません。

 今のところ、戦争の範囲をガザだけにとどめていますが、明日には範囲が広がりかねない状況です。米国はイスラエル側で戦っていますが、もし状況が悪化するともっと巻き込まれます。予測するには時期尚早ですが、この戦争が将来どうなるか、危惧しています。

――戦争が長期化した際に、イスラエルによる核の使用はあるのでしょうか。

イアン・ブレマー ユーラシア・グループ社長、国際政治学者Ian Bremmer/ユーラシア・グループ社長、国際政治学者。米スタンフォード大学研究員を経て1998年、世界の政治リスクを分析する調査会社、ユーラシア・グループ設立。『危機の地政学 感染爆発、気候変動、テクノロジーの脅威』(日本経済新聞出版)など著書多数。 Photo by K.O.

 それが起こる可能性はありません。イスラエルは法の規範を大事にします。戦争犯罪を行っていると思われたくありません。だから、イスラエルは国民に受け入れられるナラティブ(物語)を作ろうと、必死に努力します。イスラエルが病院を爆破しているとき、「ほら、ハマスは病院を拠点として使っている」と言って、メディアを病院に入れたりします。

――日本で第3次オイルショックは起こるのでしょうか。

 起こらないと思います。2023年11月11日にサウジアラビア皇太子のムハンマド・ビン・サルマン氏とイランのエブラヒム・ライシ大統領が対面会談を行いましたが、初めてのことです。この二つの石油産出国が、その地域からの石油生産の減少や寸断につながるような大きな戦争に巻き込まれたくないと思っていることは、極めて明確です。

次ページでは、「ターニングポイントを迎える」というウクライナ戦争の行方と、2024年の米大統領選、米中対立の着地点について、イアン・ブレマー氏の予測を一挙に明かす。