改革開放路線を開始して以来、安い人件費を武器に「世界の工場」としての地位を確立してきた中国。単に人件費が安いだけでなく、比較的簡単に従業員数を増減できるなど、企業側に有利な雇用条件で事業を行なえるメリットがあった。
そんな利点に惹かれて、日本をはじめとする先進国がこれまでこぞって中国に進出してきたことは、皆さんもご存知の通り。しかし最近、状況が変わってきている。
一昨年末から始まったグローバル不況の影響もあり、給与水準の上昇自体が止まっているのは中国も同様だが、その一方で企業の人件費が上昇しているのだ。
それは、2008年に起こった2つの「革命的な変化」により、中国で労使の力関係が逆転し、企業側の負担が増えているからだ。そのため、今後日系企業は想像以上の苦境に陥りかねない。今回は、その「革命的な変化」について詳しく説明しよう。
労働者側の権利に大きく偏った
「労働契約法」の驚くべき内容
1つ目の変化は、労働者側にかなり有利な法律・法規が整備されたこと。
ご存知の方もいるかもしれないが、中国では08年1月に「労働契約法」が施行され、以下のようなルールが制定された。
・企業は、従業員入社後1ヵ月以内に書面の労働契約を結ばなければならない。
・それに違反すると、企業は従業員に2倍の給与を支払わなければならない。
・従業員と連続3度目の労働契約を結ぶ場合、(従業員本人が望めば)無期限契約(終身雇用)としなければならない。
・社員の就業年数に応じて、有給休暇を与えなければならない。
・社内で導入する規定類は、会社側が独断で内容を決めることができず、従業員の意見を反映したものにしなければならない。
上記は、労働契約法条文の一部にすぎないが、全体的にかなり労働者側に肩入れしたものとなっている。さらに08年5月に施行された「労働紛争調停仲裁法」により、従業員が会社相手に労働仲裁を起こす場合の費用も無料化されたのだ。