【一人っ子政策のツケ】中国で進む少子高齢化、恐るべき未来とは?
「経済とは、土地と資源の奪い合いである」
ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。
本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。

【一人っ子政策のツケ】中国で進む少子高齢化、恐るべき未来とは?Photo: Adobe Stock

中国を襲う少子高齢化、これからどうなる?

 中華人民共和国は1949年の建国以来、治安の維持、社会保障の充実、医療や衛生の改善などを進め、人口を急増させています。しかし急激な人口増加と、そこから引き起こされる食料不足を懸念し、1962年から都市部に限定して人口抑制政策が始まります。

 全国的に一人っ子政策を導入したのは1979年です。一人っ子政策とは、一組の夫婦につき子供を一人に制限するものです。一人っ子政策によって人口急増の抑制には成功しました。しかし、急速な少子化は急速な高齢化をもたらしました。老年人口割合が14%を超えると高齢社会といいます。

 中国は2002年に7%となり、現在は14.32%となり高齢社会を迎えています。高齢化の進展は、社会保障費の負担増大を招きました。さらに労働人口の減少が深刻化し、賃金水準の上昇を招いたのです。

 中国が「世界の工場」となりえたのは、その賃金水準の低さゆえでした。しかし、近年はこれが利点とはなりにくくなってきているのです。製造業にとっては、完全なる成長の足かせとなります。

 では、一人っ子政策をなぜやめないのか?

 実は、二人目から科す罰金の額が非常に大きいものであったといわれています。罰金が取れるから、一人っ子政策はやめない。しかし、労働力人口の減少に歯止めがかからない。そんな政府への暴動は増えました。

 さすがに問題を重くみた中国政府は、一人っ子政策を緩和するようになりました。2002年には一人っ子同士の夫婦には第二子を認めるようになり、2013年には両親のどちらかが一人っ子の場合に限って、第二子を認めるようになりました。そして2015年10月29日、ついに一人っ子政策の廃止が発表されました。

中国を待ち受ける残酷な未来とは?

 中国では急速な高齢化と経済成長を経験しました。高齢化の進行にともない医療費が増大し、教育費が高騰しました。また、高齢者の割合が高まり、人口構成が変化しています。経済成長によって生活水準が向上すると、多くの人々はそれを維持するために子供の数を減らそうとし、いわゆる家族計画が普及しました。

 近年、中国の経済成長率は年平均5%程度の低成長へ移行しつつあります。そして、一人っ子政策の廃止後も出生率はあまり上がらず、人口数は横ばいで推移しています。

 人口が増えれば労働者や消費者が増え、生産量と市場規模が拡大します。若くて安価で豊富な労働力はかつて中国の経済発展の「原動力」でしたが、少子化の進展による人口構成の変化でその優位性は薄れつつあります。

(本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)