21兆ドル、日本円にして約2000兆円。これが金融危機が世界にもたらした本当の損失額だ。
IMF(国際通貨基金)が10月に1兆4050億ドルという損失予測額を発表したが、実態はその約15倍ということになる。
なぜ、かくも開きが生じるのか。それは、IMFの予測対象には米国のローンと証券しか含まれていないうえに、その損失予測自体の基準が甘いからだ。
IMFは、損失予測とともに各種金融商品の残高推計を公表している。また、米国に並ぶ損失発生源である英国やユーロ圏についてはイングランド銀行(BOE)が同時期に金融商品別の残高推計と損失予測を公表している。
これに対して、みずほ証券の石原哲夫・シニアクレジットアナリストがより蓋然性の高い損失基準を当てはめたところ、その総額は5兆7670億ドルに上った。
破綻直前のリーマン・ブラザーズ、それにJPモルガン・チェースが第3四半期決算において自ら保有するサブプライムローン、証券化商品などに適用していた時価評価水準や、住宅価格の下落率を基準としたのである。
2つの損失予測を比べると、IMFの甘さが浮き彫りになり、数字に疑問符が付く。
米国の住宅ローン・商業不動産ローンの損失額を比較すると、石原氏の損失予測額はIMF予測の4~7倍強となる。また、今後、景気後退の深化に伴い延滞率や償却率の上昇が見込まれるカードローン担保証券が含まれる消費者関連ABS(資産担保証券)に至っては、IMFは損失を見込んでいない。
ローンや証券化商品の損失に加えて、忘れてならないのが株価下落による株式時価総額の減少だ。国際取引所連合によれば、金融危機発生前の8月末から10月末までの2ヵ月間で、世界の株式市場の時価総額は15兆3738億ドル失われた。
これらを合計すると、21兆1408億ドルとなる。米国のGDP(13.8兆ドル)をはるかに超え、日米独のGDPの合計にほぼ匹敵する。金融危機で世界経済が被った傷を癒やすのは容易ではない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田孝洋)