10月はマイナス脱却だが横ばい
実質賃金が下落を続ける
今年の春闘では、5.1%(うちベア3.56%)という高率の賃上げが行われた。その結果、名目賃金の上昇率はこれまでの傾向に比べると顕著に高くなった。
この変化を見て、日本がようやく物価上昇→賃金上昇→消費増による経済の好循環に入ったという考えが広まっている。では、日本人はどれほど豊かになったのか?
人々の暮らし向きを決めるのは名目賃金ではなく実質賃金だ。
ところが実質賃金は、2024年5月まで26カ月連続で前年同月比マイナスを続けた。6~7月にプラスになったが、8~9月にはマイナスに戻った。直近、公表された10月分勤労統計調査では、現金給与総額(事業所規模5人以上)は前年同月比2.6%増だったが、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)の前年同月比も2.6%上昇したので10月は実質賃金の伸びはほとんどゼロだ。
しかも、こうなったのは政府の電気・ガス代の補助再開で物価の伸びが鈍化したためだ。
つまり、春闘で目覚ましい賃上げが実現したのに実質賃金の下落過程に歯止めがかかっていないのだ。
なぜこうなるのか? 今後の見通しはどうなのか? 石破政権は実質賃金を引き上げると約束しているが、この原因に対応しない限りその実現は難しい。それどころか物価と賃金の悪循環に陥る懸念がある。
この事態を回避するには約半世紀前の経験を思い起こすことだ。