ワコールへの商標変更
社長復帰を機に、人心を一新することを考えた。商標を従来のクローバー印からワコールに変更したのだ。
ところがこれには、いささか格好悪い裏話があった。
昭和27年(1952年)、名古屋に進出することになり、江戸初期からの長い歴史を持つ丸栄百貨店で和江商事の大売り出しをした時のこと、当地に店を構える森本本店という老舗から、
「クローバー印は商標侵害であり、使用しないでいただきたい」
という趣旨の内容証明郵便が送られてきた。
寝耳に水の出来事だ。そもそも勉強不足で商標登録のことを軽視していたのだ。復員してすぐに使いはじめた愛着のある商標だけに、幸一は大あわてである。
森本本店は下着を扱っていたわけではなく、小間物や雑貨を扱っていた。
「譲ってもらうわけにはいきませんか」
と、名古屋で市会議員をしている知人を通じて交渉してみたが、
「うちは昭和14年からこの商標を使っております」
とにべもない。
結局、登録商標権侵害賠償金を支払うことになってしまった。
そこで彼が思いついたのがワコールという商標だった。そこには、父から貰った和江の名を永遠に留めよう(和江留:ワコール)という思いが込められている。女性社員にアンケートをとってみたが、優しく温かい響きがすると好評だ。今度はしっかり商標登録を行った。
取引先の間でも評判は上々。そもそも和江だと“かずえさん”と呼ばれることがしばしばあったのだ。
〈これは結果的には大成功となった。この名前は呼びやすかったために伝播も早く、みるみるうちに定着していったのである〉(『貫く「創業」の精神』)



