LINEのようなつながり感は
イノベーションにもちょうどいい

LINE使いの知人のおかげで、会いたいと思っていた人に秒速でアポが取れたエピソードを語る入山准教授

入山 今、「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」の連載でソーシャルネットワーク理論について執筆していますが、その中に「弱い結びつきと強い結びつき」という考え方があって、イノベーションには弱い結びつきのほうが向いていることがわかっています。ただし、弱すぎてはダメで、1回会って名刺交換して終わりだとゆるすぎます。今日のように1時間か2時間お話して、あるいは食事に1回行くと、LINEをしましょうというくらいのつながりになれる。そうすると、ちょっと困ったときに聞けたりします。ですから、LINEのようなつながり感はイノベーションにもちょうどいいと思います。

松橋 ビジネスSNSをそういう視点で見たことはなかったですね。

入山 実は先日、ビジネス分野で著名なある方とお食事をさせていただいたとき、ある上場企業の社長さんにお会いしてみたいんですよねと話したら、ちょっと待ってとLINEをやりだして、「入山さん、来週水曜日空いてますか」と。空いてますと答えたら、「じゃあ、ご飯セッティングしました」という感じで即決まるんですね。この間、わずか30秒ほど。こんなふうに社員や友達同士でシームレスにつながると、無限にいろいろな可能性が広がっていきそうです。

 これは大きな企業でも有効活用できるのではないでしょうか。大企業は事業部で分かれていたり人脈で分かれていたり、派閥があったりと、組織が分断されてしまっていますよね。人間の性質として仕方がないのですが、そうした中でも情報をシェアできる可能性が出てきます。組織パフォーマンスの向上には、組織全体の知力を高める「トランザクティブ・メモリー」が重要です。つまり、組織の学習効果・パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバー全員が同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが『他のメンバーの誰が何を知っているのか』を知っておく」ことです。

 ビジネスSNSはこの代替機能も果たすと考えられます。何かを聞きたいときに、それを知っている誰かにすぐ聞けるというように、瞬時にアクションに移れるからです。返信もスピーディにもらえます。また、ビジネスが企業の組織内だけでなく、外部とのつながりの中で進められるケースがますます増えてくるので、企業間の連携も必要になってくるのではないでしょうか。

松橋 そうですね。LINE WORKS上では組織構造にとらわれずにプロジェクトごとにグループを立ち上げることはできますが、今、企業間でもつながることができる機能の開発も進めています。

入山 企業が導入する際には、最初に改めて社員のリアルな交流会などを開いて、顔を突き合わせるとさらに効果が出るかもしれませんね。一度、インフォーマルなつながりを持つとSNSでの交流もしやすくなります。

松橋 それはいいアイデアですね。

入山 ワークライフバランスという点でも、大きな可能性を感じます。子育てや介護のために定時で働けない人も、これからは重要な戦力。そうした人たちにとって、職場以外の場所でも簡単に使えるというのは、とても便利だと思います。今日、いろんなお話を伺いましたが、一番興味深かったのは、“ビジネスSNS を使うことで気持ちが変わる”という点です。社員のモチベーションを上げる方法は、経営者が最も欲しがっているノウハウですから。そうした意味でも、ビジネスSNSは組織を活性化させる突破口になりそうですね。

松橋 当社が目指しているのは「仕事のポータル」です。気軽に使えて、かつ使うことで気持ちがポジティブになれるようなツールを目指していきたいと思っています。いろいろなご意見をお聞かせいただき、大変参考になりました。

(対談日:2016年10月11日 構成/河合起季、撮影/宇佐見利明)