欧米では中途失明原因の第1位になるほど患者数が多い加齢黄斑変性。近年では日本人にも増加しているが、白内障や緑内障などの疾患と比べるとまだまだ認知度は低い。日本では女性よりも男性に多く、また高齢患者が多い欧米と違い働き盛り世代にも発症する傾向があるという。自覚症状やリスクを高める要因を知り、早期発見につなげて欲しい。

加齢黄斑変性はどんな疾患?

兵庫医科大学眼科学教室
主任教授・五味文医学博士

 黄斑とは、網膜の中心部に位置する直径わずか1.5~2ミリメートル程度のごく小さな部位。ここには、私たちがものを見るために重要な役割を担う「視細胞」が集中しており、黄斑に不具合が生じると視力は著しく低下してしまう。

  「加齢黄斑変性とはその名の通り、黄斑が変性することで視力に異常が表れる疾患です。欧米では70代後半から80代以降の高齢者に多く見られ、日本でも年齢を重ねるごとに患者数は増えていきます。ただし、欧米と比べると発症年齢が若干若く、60代後半ぐらいから増加傾向が見られます」と話すのは、兵庫医科大学眼科学教室の主任教授・五味文医学博士だ。さらに、40~50代という働き盛りの世代でも起こり得る他、特に男性に多い疾患であり、これは欧米ではあまり見られない、日本(アジア)独特の特徴でもあるという。

 加齢黄斑変性について調査した「久山町スタディ」※1では、有病率がおよそ3:1の割合で女性より男性に多いことも分かっている。

 加齢黄斑変性は、大きく二つのタイプに分けられる。一つは「萎縮型」といわれるもので、加齢に伴って黄斑の組織が萎縮していくことで起こる。詳しい原因は明らかになっていないが、網膜に老廃物が溜まることで酸素不足等が起こり、その影響により萎縮が進むと考えられている。

 「萎縮型の場合は進行速度が非常にゆっくりで、年単位で少しずつ進み視力に悪影響を及ぼします。症状の程度にもよりますが、萎縮が黄斑の中心部分に及ばない場合、比較的視力が保たれることもあります。とはいえ、萎縮が進めば失明に至る可能性もあります」(五味教授)

 もう一つの「滲出型(しんしゅつがた)」は、網膜の裏に新生血管と呼ばれる異常な血管が発生することで視力障害が生じる。原因としては、慢性的な炎症や老廃物の蓄積による酸素不足等が、新生血管を誘導するのではないかと考えられている。新生血管は非常に脆いため、出血や血液成分の漏れなどが起こりやすく、黄斑に滲出が及ぶことで深刻な視力障害に至る。

加齢黄斑変性は、眼の網膜にある黄斑の機能が加齢などの原因によって不具合が生じる病気。脈絡膜から発生する新生血管(脈絡膜新生血管)の有無で、「滲出型」と「萎縮型」に分類される (引用元:ノバルティス ファーマの加齢黄斑ドットコム)

  「日本人を含むアジア人には滲出型が多い傾向にあります。滲出型の症状の進み方は萎縮型と比較して非常に早く、数週間単位でどんどん悪化するケースも少なくありません。働き盛りの年代の場合、視力の違和感に気づいても忙しさから眼科の受診が遅れたり、“老眼かな?”と思い込んで放置しがちです。加齢黄斑変性の症状を知っておき、少しでも異変を感じたら早めの受診を心がけてください」(五味教授)

※1 引用元:安田美穂、あたらしい眼科 26 (1) 25-30, 2009